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 お寺にこもって座禅を組み、長い時間目を閉じて心を無にする。非日常の体験と思われがちな禅を、デジタル技術で身近にするサービスが登場した。京都の本職の禅僧が開発を主導し、iPhoneなどで手軽に禅を体験できる。新型コロナウイルス禍で生活が一変し、心が乱れて不機嫌になりやすい現在、禅を日常に取り入れて働き方や暮らしをサポートする。

 「新型コロナ禍の現代、場所や時間の制約を受けず禅をライフスタイルに溶け込ませ、当たり前に存在する世界にしたい」。こう語るのは京都市の禅寺、建仁寺両足院の副住職を務める伊藤東凌(とうりょう)氏。ベンチャー企業InTripで同名の禅瞑想(めいそう)アプリの開発を率いた。

 InTripでの肩書は「代表取締役僧侶」。現役の僧侶として、15年にわたって座禅や写経などの体験を通じて禅を指導してきた。

 InTripは音楽や音声コンテンツを通じて禅を体験するためのアプリだ。「不安やストレスを和らげる」「心を落ち着かせる」「集中力を高める」といった目的に応じた禅プログラムを体験できる。プログラムには本職の僧侶としての知見と実地で指導してきた経験をふんだんに盛り込み、とっつきにくい印象のある禅を身近に感じられるよう工夫した。

 具体的には、周囲や外の世界を意識する「気づく」、自分と向き合う「ほどく」、状況に応じて自分を変えていく「ととのえる」という3つの要素に禅を分解。それぞれの要素に対応する音楽を聴いたり、伊藤氏の講話音声を聞いたりして、禅の世界を体験できるという。

 コンテンツは日替わりで、1つ当たりの時間は3~5分程度だ。利用料は月額980円(税込み)。2020年7月の提供開始以来、インストール数は4万件、有料課金は1500件あまりという。

「InTrip」で体験できる禅コンテンツの例
「InTrip」で体験できる禅コンテンツの例
(出所:InTrip)
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禅を言語化、コロナ禍に悩む利用者の支えに

 開発を思い立ったきっかけはコロナ禍のパンデミック(世界的流行)だ。外国人はもちろん、日本人も寺を訪れるのが難しくなり、禅体験を届けられなくなった。「お寺に来てもらわないと禅を体験できない。以前は私自身もそう思い込んでいた。より踏み込んで禅を言語化することで、お寺に来なくても禅の勘所を押さえて毎日の生活に溶け込ませられるのではないか」。伊藤氏は開発の背景をこう話す。

 スマホアプリにすることで、従来よりもむしろ禅を身近に体験してもらえるようになると期待する。「禅とは人間のあり方そのもの。お寺がベストな環境であるのは確かだがそもそも頻繁には来られない。むしろ講話を毎日聞いたり想像力を働かせたりするのが重要。毎日真剣に続ければ、スマホアプリであっても本格的な禅体験は可能と考えている」(同)。