「空飛ぶクルマ」と呼ばれる電動の垂直離着陸(eVTOL)機は、従来の航空機に比べて運用面での手間やコストが低く、自動車のように手軽に乗れる可能性があることから、有力なスタートアップ(新興)企業が世界中で続々と生まれている。今、そんなeVTOL機を手掛けるスタートアップがこぞって日本市場や日本企業に熱視線を送っている。中でも、たびたび名が挙がるのが「OSAKA(大阪)」と「Honda(ホンダ)」である。なぜこの2つが、業界で注目を集めるのか。
大阪に関心が寄せられるのは、大阪府と大阪市が2025年開催の大阪・関西万博に向けて、空飛ぶクルマ実現の動きを加速させているからである。その活動が、eVTOL業界で広く知られるようになってきた。米新興Overair(オーバーエア)のHead of Business Developmentを務めるJosh Aronoff氏は「大阪をはじめ、日本はeVTOL機を利用した空のモビリティーに力を入れている印象を受ける」と語る。
大阪府は20年11月に空飛ぶクルマの社会実装に向けた動きを促すための協議の場として「空の移動革命社会実装大阪ラウンドテーブル」を発足。その後、21年9月に、大阪府と大阪市は日本の新興企業SkyDrive(東京・新宿)と空飛ぶクルマの実現に向けた連携協定を締結するなど、活発な動きを見せている。この連携では、課題抽出や事業化などを目的に大阪府内で実証実験を実施していく。
SkyDriveは日本のeVTOL機メーカーの中では先行組といえるが、世界に目を向けると後発の企業である。先行する海外の新興企業の中で、とりわけ日本市場に食い込んでいるのが、ドイツVolocopter(ボロコプター)だ。同社は出資者であり、提携先でもある日本航空(JAL)と共に、日本市場の開拓を目指している。JALは21年10月、大阪府が実施する「空飛ぶクルマの実現に向けた実証実験」に採択された。
まず、同年11月に大阪・関西万博会場となる夢洲(ゆめしま)の上空をヘリコプターで飛行し、飛行環境や地上設備に関する制約を調査する。次に、JALはボロコプターと協力し、大阪上空でのヘリコプターによる飛行風景と、空飛ぶクルマの機内風景を組み合わせた「バーチャルフライト」を、全国の自治体に対して提供する。これにより、体験者に空飛ぶクルマを身近に感じてもらうのが狙いだ。バーチャルフライト体験前後にアンケートを実施して顧客期待度を調査する。すなわち、eVTOL機の社会受容性を調べるのが目的だ。
25年の万博で飛行を目指すボロコプターは、早ければ23年に公開試験フライトを日本で実施する予定とする。同社によれば、JALはボロコプターが手掛けるeVTOL機と、同機を基にした輸送用の大型ドローンを合わせて100機を予約したという。加えて、ボロコプターは日本の地方自治体と、同社のeVTOL機やドローンの災害時利用などについて、話し合いを始めている。