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 社長が自ら品質不正の隠蔽を決断・指示。多くの拠点が広範な製品でさまざまな品質不正を行った、まるで「品質不正のデパート」のような状態──。全貌が明らかになった日立金属の品質不正について、あるコンサルタントは「技術主導で顧客不在だ。経営幹部も本社部門および拠点の幹部も品質不正を認識していながら是正しなかった。極めて悪質な事例と言わざるを得ない」と断じる。

日立金属の品質不正に関する調査報告書
日立金属の品質不正に関する調査報告書
(写真:日経クロステック)
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 同社は2021年10月26日、新たに品質不正を発表した。航空機・エネルギー分野の特殊鋼製品などで品質データを偽装するなどの不正が発覚。顧客仕様を満たさない製品(以下、不適合品)を出荷していた。不適合品を納めた顧客は105社で、不適合品の種類(鋼種)は約380に及ぶ。30年にもわたって不正を行っていたことが明らかになった。

日立金属の航空機・エネルギー分野の特殊鋼製品
日立金属の航空機・エネルギー分野の特殊鋼製品
(出所:日立金属)
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きっかけは日立製作所への投書

 日立金属は、21年1月に品質不正に関する調査報告書(以下、報告書)を発表している*1。磁石製品と特殊鋼製品、自動車向け鋳物製品などで1980年代以降、長年にわたって品質不正行為を続けてきたことが判明。この事態を受けて同社が作成したものだ。

*1 この報告書の名義は外部の第三者ではなく、同社となっている。外部の専門家で構成された特別調査委員会による調査を基に、日立金属が作成した報告書である。従って、客観性がどこまで保証されているのかは不明である。

 品質不正が発覚したきっかけは、親会社である日立製作所に宛てられた投書だ。同社は、報告書が発表される1年前の20年1月にその投書を受領した。その内容は、日立金属安来(やすぎ)工場(島根県安来市)が生産する特殊鋼について「試験を実施せずに架空の値を入力している等の品質不正がある」(報告書)と告発するものだった。投書した人物は明らかにされていないが、これは情報提供者を保護するためとみられる。

 この投書を受けて、日立製作所は日立金属への監査「品質コンプライアンス監査」の実施を決定。日立金属は、当時の技術開発本部長と安来工場長、品質保証本部長がこの監査をもって品質不正の事実を日立製作所に報告しようと、品質不正行為をまとめたリストの草案まで作成した。

社長が社会的制裁と対策費用を恐れたか

 ところが、当時の日立金属代表執行役社長が、航空機・エネルギー分野における特殊鋼製品の品質不正については報告の対象から外すように指示。技術開発本部長と安来工場長、さらに当時の金属材料事業本部長に対し、リストの草案からの削除を要請した。この指示に安来工場長や金属材料事業本部長は反対したものの、社長は譲らず、航空機・エネルギー分野の品質不正は監査で報告されずにそのまま隠蔽される形となった*2

*2 報告書には品質不正の事実を把握しておきながら隠蔽などに関わった、社長を含む役員の実名が記載されている。なお、社長を含む5人の役員は、2020年5月に引責による退任処分を受けている。

 同社長が、航空機・エネルギー分野の特殊鋼製品の品質不正について隠蔽にこだわった理由について、報告書は明らかにしていない。だが、報告書において同社で品質不正が長年続いた原因を分析した箇所には、同分野が社会インフラに関わっており、安全性が極めて重視されるため、「仮に公になった場合の社会的影響や対応コストが大きい」「問題が明るみになる(筆者注:明るみに出る)ことによる社会的影響、それに伴う当社への影響を危惧」したとの記述がある。同社長も、品質不正を告白した場合に、世間から受ける非難や顧客からの失注、企業イメージの毀損、対策や賠償にかかる莫大な費用の捻出などが発生する可能性に臆したのではないだろうか。

継続調査を明記していた報告書の箇所
継続調査を明記していた報告書の箇所
航空機・エネルギー分野の特殊鋼製品を生産する、安来工場と桶川工場、日立メタルプレシジョンが継続調査の対象となった。日立金属の前社長が同分野の特殊鋼製品の品質不正について隠蔽を指示した結果、特別調査委員会による調査が遅れた。(出所:日立金属)
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 今回の品質不正は、こうした経緯によって特別調査委員会による調査が遅れた結果、今になってようやく発表されたものだ。