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 半導体デバイスや製造装置、部品・材料メーカーなど約2000社が加盟する、半導体の国際的な業界団体である米SEMI(Semiconductor Equipment and Materials International)が、半導体のサプライチェーンを管理するトレーサビリティーの規格化を急いでいる。

 最大の特徴が、ブロックチェーン(分散型台帳)で半導体デバイスの流通履歴を管理して、模倣品の混入を排除する仕組みをつくることだ。今後、数年内の規格化を目指している。「これまでSEMIでは1000を超える規格『SEMI Standard』を作ってきたが、主に工場内を対象にしたものだった。今回の大きなブレークスルーは、最終製品の性能を担保することにスコープを広げる活動をすることだ」。ブロックチェーンを活用した規格の取りまとめを担当するSEMIスタンダード・トレーサビリティ技術委員会日本チャプター共同委員長の角淵弘一氏はこう話す。

 「現在は立案ベースだが、ブロックチェーンという新技術がサプライチェーンのトレーサビリティーにおいて不正などの問題を見つけるのに非常に有効だと考えている」(角淵氏)

 昨今の半導体不足によって、「模倣半導体」が流通在庫で急増しているとみられている。実態を正確に把握するのは非常に困難だが、2021年6月に半導体の真贋(しんがん)判定サービスを開始した沖エンジニアリングによると、同社が顧客からの依頼で検査した流通在庫品のうち、「約3割が疑わしい」状況だという。

 模倣品は流通段階でサプライチェーンに混入する。半導体デバイスの製造は、設計、前工程製造、後工程製造と、資本関係や国境も飛び越えて水平分業化が進んでおり、自動車や通信機器など最終製品(機器)の製造も同様の状況のため、模倣品が入り込みやすくなっている。特に半導体不足によって流通在庫品のニーズが非常に高まっている現在は、模倣品を流通させる悪徳業者にとって絶好の“稼ぎ時”なのだ。

半導体デバイスのサプライチェーンとトレーサビリティー規格開発の動き
半導体デバイスのサプライチェーンとトレーサビリティー規格開発の動き
半導体デバイスの製造は水平分業化が進んでいる。SEMIのサプライチェーントレーサビリティー構想は、デバイスの製造工程までは標準化されたバーコードで管理し、⑥以降を標準化されたブロックチェーンで模倣品の混入を防ぐというものだ(図:SEMIの図を基に日経クロステックが一部改訂)
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 模倣半導体は、有名ブランドバッグのコピー品などと同様、かなり以前から業界関係者を悩ませていると同時に、抜本的な解決策が見つかっていない問題である。例えば米政府当局が11年ごろに実施した調査では、模倣半導体の流通金額は年間75億米ドル(約8500億円)にも達していた。これを受けて、チップに固有のIDを付与し、第三者の認証機関を通じて真贋判定をする仕組みの導入などが検討されたが、実現へのハードルが高く計画は進まなかった。複雑化した半導体のサプライチェーンに参加する多数の企業が、1つのサーバーにアクセスして認証する中央集権的な仕組みの構築には無理があったのだ。

 その後も対策に大きな進展が見られなかったが、「18年にSEMIに対して米国側から模倣半導体を造らせない、使わせないための標準規格を作ってくれという依頼があった」(角淵氏)。そこでSEMIでは、日米に拠点があるトレーサビリティ技術委員会で、半導体デバイスの製造から流通までを追跡するための規格の作成を開始した。

 下図の5つの規格のうち、①の「SEMI T23」は半導体デバイスの製造・流通・市場などのサプライチェーンを通じて模倣品や不適格品の存在を大幅に削減することを目的としたトレーサビリティーの国際規格で、19年に成立している。ただし、これはコンセプトや目的のみを記述したものである。また、②と③は半導体デバイス製造工場に納入する重要な装置や材料に対するトレーサビリティーを実現するための規格である。

トレーサビリティー関連の新しいSEMIスタンダード作成の動きと現状
トレーサビリティー関連の新しいSEMIスタンダード作成の動きと現状
SEMIでは半導体デバイスのサプライチェーントレーサビリティーの実現に向けて、各種の標準規格作成の動きがある。⑤のブロックチェーンに関する標準規格は、日本のトレーサビリティ技術委員会が中心になって開発を進めている(図:SEMIの資料を基に日経クロステックが一部改訂)
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