全2322文字
PR

 新型コロナウイルスの感染防止対策と行動制限緩和を両立させるべく、東京都は2021年11月1日、スマートフォンを使うデジタル式のワクチン接種証明を導入した。デジタル式のワクチン接種証明を巡っては、他の自治体や企業でも準備や検討が相次いでおり、2021年12月中の公開を予定する国のアプリを待てないとする声は多い。さまざまなアプリが乱立することが決定的となったなかで、行政機関が利用者にアプリの「使い分け」をどう周知していくかが課題となりそうだ。

自治体はLINEを活用

 東京都の「TOKYOワクションアプリ」は、対話アプリ「LINE」を用いる。2021年11月1日正午から接種証明用の専用アカウントをLINE上に開設し、登録の受け付けを開始した。登録手続きにはワクチン接種券を用いた簡易な「ワクチン接種済み証(臨時ワクチン接種証明)」と本人確認書類の2点を撮影してアップロードする。

東京都が提供する「TOKYOワクションアプリ」の画面
東京都が提供する「TOKYOワクションアプリ」の画面
(出所:東京都)
[画像のクリックで拡大表示]

 事務センターがアップロードされた書類を確認して利用者を登録する。登録完了後、利用者はLINEの専用アカウントのメニューを操作して、接種証明の画面を表示できるようになる。東京都が実施したコンペの結果、博報堂がキャンペーンの普及宣伝からシステム開発、事務センター運営までを一括で受注した。発注金額は9億9000万円である。

 LINEを活用した理由は「専用アプリではダウンロードの手間などで普及が進まない」(施策を担当する東京都福祉保健局)と判断したからだ。同じくLINEを活用してデジタル式の接種証明「ぐんまワクチン手帳」を導入した群馬県は、登録開始の2021年10月13日から2週間ほどで登録者数が20万人に達した。2021年10月下旬時点における接種済み県民約144万人の約14%に普及した計算となり、山本一太群馬県知事は「順調な出だし」と評価している。

 デジタル庁が開発を進めている政府のワクチン接種証明アプリは、海外渡航に使えるように国際規格と互換性を取るほか、マイナンバーカードを用いて本人確認をする仕様だ。表示した画面のQRコードに改ざん防止の電子署名を埋め込むなど、全体として不正利用防止を重視した仕様といえる。しかし、2021年10月25日からの全国的な行動制限の緩和には間に合わなかった。利用者もマイナンバーカードを持つ人に限定される。マイナンバーカードの交付枚数率は2021年10月1日現在で38.4%である。

 対して自治体の喫緊の課題は、行動制限緩和下での感染防止や地元経済の活性化に移っている。例えば東京都は、感染防止対策を都が確認した「認証店」に対して、5人以上の飲食は超えた人数分についてワクチン接種証明の所持を確認するよう店舗側に要請している。紙の接種証明や身分証明書類の提示を代替できるアプリを急いで準備することは、店舗の負担軽減に不可欠だった。

 TOKYOワクションアプリでは、協賛企業を募ってワクチン接種者にクーポンやプレゼントなどの特典も提供する。ぐんまワクチン手帳も県独自の宿泊割引といった地域活性化策と組み合わせている。特典の不正利用防止を考えるよりも、まずは事業者と利用者ともに使いやすく、普及させやすい点を重視しているといえる。都は「国のアプリ提供を待ったり、国のシステムと連携させたりすることは考えていない」(福祉保健局)とする。

 企業が開発するシステムを活用して、自治体が独自のワクチン接種証明アプリを提供する検討も進んでいる。新型コロナのPCR検査事業などを手掛け、独自の接種証明アプリ「ワクパス」の提供を発表したICheckと、独自の接種証明アプリ「PASS-CODE」を開発して実証実験を進めている凸版印刷の2社には、それぞれ複数の自治体から問い合わせがあるという。2社ともに行政機関にもアプリを提供する方向で協議を進めている。