ラーメン店の「廃棄豚骨(とんこつ)」で、放射性物質に汚染された水が浄化される——。安価かつ大量生産が可能な金属吸着剤を、日本原子力研究開発機構(以下、原子力機構)と東京大学大学院理学系研究科が開発した(図1)*1。「重金属を含む土壌の浄化や、発展途上国などでの飲料水の浄化に使うといった用途も考えられる」(原子力機構の物質科学研究センター中性子材料解析研究ディビジョン階層構造研究グループ研究副主幹の関根由莉奈氏)。
この金属吸着剤は、食品廃棄物である豚骨ガラを、クッキーやパンケーキの材料にも使われる「重曹」(NaHCO3:炭酸水素ナトリウム)の水溶液に漬けて作製する。これを、カドミウム(Cd)やストロンチウム(Sr)、鉛(Pb)などで汚染された水に入れるだけで浄化される。吸着性能も高い。例えば、ストロンチウム吸着剤として知られる天然ゼオライト(管状細孔と空洞がある結晶性アルミノケイ酸塩)吸着剤と比べて、単位質量当たり約20倍の汚染水を処理できる。
炭酸の含有量を高めて吸着性能を向上
牛や豚などの骨がストロンチウムやウラン(U)などの吸着性能を持つことは、原子力利用の研究者の間でかねて知られていた。米国では既に、原子力発電所から放射性物質が流出した際に広域拡散を防止するために、「牛骨を土壌に埋める方策が試験的に実施されていた」(関根氏)。しかし、吸着性能が前述の天然ゼオライト吸着剤に劣るなど十分でなかったため、実用化には至らなかったという。
ストロンチウムなどの吸着性能を調べる中で関根氏らの研究チームが着眼したのは、骨の主成分である無機物の炭酸アパタイト*2だ。動物の骨と人工骨を比べると、動物の骨の方が吸着性能は高い。両者を比較すると、人工骨を構成する炭酸アパタイトに比べて、動物の骨の炭酸アパタイトは炭酸の含有量が圧倒的に高いと判明した。「炭酸の含有量を上げれば、吸着性能は向上するのではないか」(同氏)との発想にたどり着いた。