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 事実上の「東芝解体」が発表された。総合電機メーカーである現在の東芝を、インフラサービス会社とデバイス会社(共に社名は未定)に大きく切り分け、残った事業を東芝として存続させる*1。現在の東芝からこれらの3つを分離し、それぞれ独立会社とする「スピンオフ(分離)計画」(東芝)だ。これについてある経営コンサルタントは「東芝の解体、その序章かもしれない」とみる。

東芝が打ち出したスピンオフ計画
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東芝が打ち出したスピンオフ計画
現在の東芝から事業を分離し、3つの独立会社とする。狙いは「株主価値の顕在化」。すなわち、キャピタルゲインである。(作成:日経クロステック)

*1 2021年度中に開催する臨時株主総会での株主の承認を経て正式決定となる。

 2017年に、東芝は2期連続の債務超過による上場廃止を回避するために6000億円の第三者割当増資を実施。これにより、同社の大株主に「物言う株主」、すなわちアクティビストが名を連ねることとなった。以降、アクティビストは東芝の経営陣と対立してきたが、ついに思い通りに東芝を動かせるようになったということだろう。狙いは「株主価値の顕在化」と東芝取締役会の戦略委員会(SRC)が言うように、要はキャピタルゲイン(株式の売却益)だ。

「なるべくしてなった」

 日本中の製造業を驚かせる大ニュースだが、「想定内。なるべくしてなった」(経営コンサルタント)という見方が市場関係者には少なくないようだ。そのことは、アクティビストの視点に立てば理解できる。アクティビストの目的は、できる限り短期間に東芝の市場価値を高めて売り抜けること。東芝の業績回復や成長をじっくりと待つつもりなど、はなからない。すると、東芝を解体して事業を切り売りするのは、キャピタルゲインを得るための最も確実で手っ取り早い方法なのだ。

 ただし、こうなった原因は東芝自身にある。これまで東芝の経営陣が、複数の異なる事業を抱える総合電機メーカー、すなわち複合企業体(コングロマリット)として、成長軌道を歩む絵を描けなかったからだ。

 多くの事業を抱えた大企業として高いブランド力を誇るものの、現在の東芝は事業間の相乗効果を発揮できていない。東芝の経営陣に求められたことは、事業間の相乗効果を引き出して1+1を2よりも大きくすることだった。だが、現実は1+1が2よりも小さくなってしまっている。これがいわゆる「コングロマリット・ディスカウント」だ。コングロマリット・ディスカウントとは、各事業を独立して経営した場合の市場価値と比べて、企業の市場価値が低下している状況のことである。アクティビストから見れば、東芝はコングロマリット・ディスカウント状態以外の何ものでもない。

成長期の産物

 今の日本で、複合企業体で将来有望と言える企業を探すのは難しい。重工メーカーは早々と造船事業や電機事業などを本体から切り離している。東芝と同じく総合電機メーカーだった日立製作所は、リーマン・ショックの直撃を受けて09年度に7873億円の最終赤字を計上。これを機に、社会インフラとIoT(Internet of Things)を中心とした企業へと変貌を遂げた。相乗効果を得られないと判断した会社は、上場子会社である日立化成(当時、現在は昭和電工マテリアルズ)や日立金属でも容赦なく売却を決定したのは記憶に新しい。

東芝のWebサイト
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東芝のWebサイト
(出所:東芝)

 「複合企業体は、右肩上がり市場の産物かもしれない」と経営コンサルタントは言う。かつて日本が成長期にあった頃は、景気の波によってある事業が傾いても他の事業で補い合うことができた。企業全体で見れば成長し続けていたからだ。複合企業体の大きさは、そのまま企業価値の向上にもつながった。

 ところが、現在は成長の見込める事業が少なくなり、他の事業がその足かせとなっているケースが目立つ。成長の余地があるのに、思い切った投資ができない。投資総額を他の事業にも配分しなければならず、成長事業に投じる金額が目減りするからだ。これでは、成長市場に群がる世界の企業、すなわち事業を絞り込んでいる専業メーカーや、複合企業体でもメリハリの効いた投資を行う企業には太刀打ちできない。液晶、半導体、薄型テレビ……。技術で勝っても、投資力で競り負けるというのが、日本の複合企業体が落ちていくお決まりのパターンだ。

 アクティビストからすると、東芝の経営陣は相乗効果が見込めない事業を多数束ねたままでやり過ごし、短期における魅力的な将来ビジョンを一向に描けていないと映る。それに日本ばかりか世界を見渡しても複合企業体で成功している企業は少ない。おまけに、東芝の経営陣との関係はごたついている。すると、出てくる答えは必然的に「東芝解体」となるわけだ。