自動車のドアを施解錠する鍵が大きく変わろうとしている(図1)。従来はユーザーが物理的な“メカニカルキー”を持ち歩き、直接鍵穴に差し込んだり、鍵のボタンを押したりして施解錠するのが一般的だった。近年は鍵を携帯して車両に近づくだけで施解錠できる“スマートキー”が普及しているほか、新たにスマートフォンのアプリケーションで施解錠するデジタルキーも登場(図2)。これを機に米Apple(アップル)や同Google(グーグル)といった巨大勢力が自動車の鍵に参入してきた。
スマートキーではデンソーやドイツContinental(コンチネンタル)が世界市場で大半のシェアを握る。だが、デジタルキーの搭載が本格化すれば、従来の鍵メーカーは異業種にシェアを奪われかねない。こうした中、メカニカルキーで国内最大手の東海理化が異色の戦略でデジタルキー事業に挑み始めた。
トヨタ自動車向けのメカニカルキーではほぼ100%、同社向けのスマートキーでもデンソーに次ぐ約3割のシェアを持つ東海理化。今後はデジタルキー事業注)で2024~25年に約40億円、28~30年に約100億円の売り上げを目指す。スマートキーは今後も拡大の余地が残るものの、メカニカルキーは売り上げの減少が予想されるからだ。
注)小売り・流通業や住宅といった自動車、モビリティー以外の分野も含む
ターゲットは既販車市場
実は同社が当面狙うデジタルキー市場は新型車向けではない。むしろカーシェアやレンタカー向け、社用車・公用車の管理用途である。こうした既販車を利用する事業者に利用を促す。
新型車ではなく既販車からデジタルキーの導入を進めるのは、新型車(純製)への採用は敷居が高いだけでなく、「今後5~10年は新型車よりも既販車の方が市場は大きい」(同社執行役員事業企画本部長ニュービジネスマーケティング部担当の佐藤雅彦氏)ためだ。すべての車両の鍵がデジタルキーに置き換わるのは「30年ごろ」(同社エレクトロニクスセンターエレクトロニクス技術領域領域長の加藤久視氏)と予想する。
新型車の鍵がすべてデジタルキーに置き換わる前に、既販車向けのデジタルキー事業を育て、競争力を維持する。「DXの需要も含めて今が好機。自治体や企業に売り込んでいる」(加藤氏)。