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 日産自動車が栃木工場に導入した「ニッサンインテリジェントファクトリー」(以下NIF)は、同社が開発した最新の生産技術を数多く組み込んでいる。既にSUV(多目的スポーツ車)タイプの新型電気自動車(EV)「アリア」をNIFで造り始めており、同社執行役副社長で生産・SCM担当の坂本秀行氏が「明日の日産の飛躍の要になる」とするほどだ。今回は、建屋から一新させた塗装工場を紹介する。

 NIFは基本的に栃木工場の既存建屋(第2ライン)に導入されたが、塗装工場に関しては建物から一新させている。塗装工場の建屋は2階建てで、延べ床面積は「東京ドーム1個分に相当する」(同社)という広さだ。塗装ラインは1階にあり、塗装後の外観検査は2階で実施している。

 NIFの塗装工場では新技術として、車体とバンパーという異なる材料の部品を一体で塗装できる塗装ライン、微細な欠陥も見逃さない外観自動検査システムなどを導入した。まずは塗装ラインから見ていこう。

「ニッサンインテリジェントファクトリー」の塗装ライン(左)と塗装外観自動検査(右)
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「ニッサンインテリジェントファクトリー」の塗装ライン(左)と塗装外観自動検査(右)
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「ニッサンインテリジェントファクトリー」の塗装ライン(左)と塗装外観自動検査(右)
(出所:日産自動車)

鋼板の焼き付け温度を下げて一体塗装

 塗装工場の塗装ラインでは、バンパーとボディーが一体となった状態の車両が、左右に多関節ロボットを配置した塗装エリアにゆっくりと入ってくる。車両がある位置に到着すると、多関節ロボットが一気に動き出し、先端に取り付けられたスプレーガンから塗料を吐出し、手分けして車体を塗装していく。

ボディーとバンパーの一体塗装
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ボディーとバンパーの一体塗装
(出所:日産自動車)

 近年、車体の樹脂化が進んでいる。多くの自動車が、例えばバンパーにポリプロピレン(PP)などを採用。PPだけでなくABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)樹脂を外装部品に採用する例も増えた。一方、ボンネットやルーフ、ドアなどのボディーは鉄鋼やアルミニウム合金の板材が主に使われている。

 このように車体の材料が金属と樹脂で異なるため、従来はこれらを別々の塗装工場で処理する必要があった。その最大の理由は、金属と樹脂で塗装後の焼き付け温度が異なる点だ。鋼板では160℃、樹脂では85℃と2倍近い差がある。

 この課題を解決するため日産は新しい塗装技術を開発した。具体的には、鋼板など金属への焼き付け温度を樹脂と同じ85℃へと下げられる技術だ。低温で硬化する水性塗料を独自に開発すると同時に、3層構造の塗膜の上段と下段に硬化剤を入れて焼き付けを促進している。「85℃で焼き付けできる水系塗料は世界初」(日産自動車)と胸を張る。

 従来、金属製ボディーでは電着塗装で下塗りした後に、中塗り、ベース、クリアコートを加えている。一方、樹脂性バンパーなどはベースを塗った後でクリアコートを加える2層構造だった。

 一体塗装工程では、樹脂でも金属と同様に中塗り、ベース、クリアの3層構造に変更。ベースの塗料に加えて、硬化剤を入れた中塗りとクリアコートも共通化し、一体塗装できるようにしている。焼き付けは3層の塗膜を一度に行っている。

塗膜の構成の違い
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塗膜の構成の違い
(出所:日産自動車)

 日産はこの塗装技術を量産適用するに当たり「研究から開発、量産化までに6年を費やした」という。そのかいあって、一体塗装によって工程を削減できただけでなく、ボディーとバンパーの質感や色の均質性も向上。「完璧な色あわせは塗装エンジニアの悲願だった」(同社)という技術だ。