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 新品・中古のカメラなどの販売、買い取りを行う「Map Camera」などを運営するシュッピンは2021年11月16日に2022年3月期第2四半期の決算説明会を開催、カメラ事業のセグメント利益が前年同期比147.5%と大幅に伸長していることを発表した。この好調を支えるのが、同年3月に同社が導入した「AIMD」だ。これまで人手で行っていた中古カメラの売買価格改定をAI(人工知能)を用いて自動化した。

 シュッピンの価格改定業務では、担当者は市場動向や過去の同社での販売データ、自らの経験則などに基づいて買い取り価格と販売価格を設定し直していた。同社が取り扱うカメラ約2万品目に対し、価格改定にあたるのは他業務も兼任する4人のチーム。同社CIO(最高情報責任者)の沢田龍志取締役は「人手ではどうしても作業に限界がある。タイムリーな価格変更を実現するために価格改定業務のAI化に踏み出した」と明かす。実際、AIの導入により販売価格の改定回数は約6倍に増加した。

 人手での作業削減だけでなく、顧客との接点増加も狙った。同社の実店舗は東京都内の1店舗のみで、主な販路はEC(電子商取引)サイトとなる。商品に価格改定が起きると、その商品を「欲しいリスト」に入れている顧客にメール通知をするといったOne to Oneマーケティングも行っている。価格改定の回数が増えれば、それだけ同社にとっての商機も増えるというわけだ。

Map Cameraサイトイメージ
Map Cameraサイトイメージ
(出所:シュッピン)

 シュッピンのCEO(最高経営責任者)である小野尚彦社長は「テクノロジーを活用して全ての業務を仕組み化することを目指している」と話す。背景には同社を含む小売業が抱える課題がある。小売業は夜や週末にも仕事があることや、体力的・精神的に負担が大きい業務もあることから人材の確保が難しいという。一方で、扱っている商材が好きでこの仕事に就く人も多いといい「機械に任せられる部分は自動化し、従業員には好きなことに注力してもらうことで従業員の働き方や生活を豊かにできる」(小野社長)と期待を寄せる。

過去2回の失敗を生かした予測モデル設計

 シュッピンは2018年にAIMDのプロジェクトを開始して以来、2回のプロジェクト中断経験を持つ。AI技術を得意とするベンダーとともに取り組んだが、自動化できる品目数が少なすぎるなど思うような結果が得られなかった。小野社長はその理由を「過去2回はAIありきで自動化の方法を考えてしまっていた。加えて、価格そのものを答えとして算出するような予測モデルを前提としており、ビジネスモデルに合っていなかった」と振り返る。

 そこで3回目の挑戦のパートナーにはコンサルティング業のシグマクシスを選んだ。「基幹システムの構築で既に当社ビジネスへの理解も深い。AIありきではなく、他社や他業界事例を基にした知見を生かして業務への適用を考えてもらえる」(小野社長)と考えた。シグマクシスはAIに価格を予測させるのではなく「この価格にした場合、何個売れるか」を予測させるモデルを提案した。「販売数を算出目標にして、在庫をきちんと売ることを目指した」(シグマクシスの溝畑彰洋先端技術応用研究所所長)。販売できる在庫個数が変動する中古販売ならではの考え方だ。

予測モデルのイメージ
予測モデルのイメージ
(出所:シグマクシス)