デンソーは2021年11月18日、設立から30周年を迎えた先端技術研究所(愛知県日進市)の取り組みについて説明した。30~35年ごろの実用化を目指し、AI(人工知能)や量子コンピューティング、次世代材料などの研究開発を進める。
同研究所は1991年に「基礎研究所」として設立され、半導体やエレクトロニクス、次世代材料、AI、人間工学などの研究を担ってきた。例えば、パワー半導体材料のSiC(シリコンカーバイド)では、低欠陥の結晶成長技術を強みとし、2020年に発売されたトヨタ自動車の燃料電池車(FCV)「MIRAI(ミライ)」に採用されるなどの実績を持つ。
17年に先端技術研究所に名称を変更し、20年には半導体とエレクトロニクスの研究領域を、トヨタと共同で設立した半導体先行開発会社「ミライズテクノロジーズ」に集約した。これにより、先端技術研究所の人員は見かけ上減り、現在は約250人(研究者7割、技能員3割)となっている。
ただし、ミライズテクノロジーズは先端技術研究所内にあり、これまで以上に連携を強化している。また、ミライズテクノロジーズにはトヨタからの出向者が約250人加わっているため、「デンソーの全体的な研究体制は強化されている」(先端技術研究所長兼マテリアル研究部長の伊藤みほ氏)と話す。同じ敷地内にあるパワートレーン関連の研究子会社SOKENとも連携する。
具体的な研究事例として、AIによる感情認識や量子コンピューティング、レアアースフリー磁石、燃料電池向けの新材料などを紹介した。このうち、AIや量子コンピューティングにかかわる研究者は100人弱で、材料研究にかかわる研究者は相対的に少ないという。
AIによる感情認識では、運転者の表情やしぐさからAIによって感情を読み取る。例えば、運転者がイライラしていることを検知すると、イライラを抑えるための光や香りなどを出力し、危険なあおり運転などを抑制する。車内空間を快適にすることにも、感情認識は貢献する。
量子コンピューティングでは、古典的なコンピューティングと組み合わせた「量子古典ハイブリッド」と呼ぶ技術を開発している。工場のAGV(無人搬送車)やMaaS車両などを対象に、最適な経路を高速に導き出すことを目指す。