ITを活用して、市民自らが社会や地域の課題解決を目指す「シビックテック」の波が学生にも広がりつつある。行政のIT化を支援する非営利団体のコード・フォー・ジャパン(東京・文京)は22歳以下を対象に社会課題の解決をテーマにした開発コンテスト「Civictech Challenge Cup U-22(CCC U-22)」を開催、2021年10月9日に最終審査会を開いた。
CCC U-22に参加する生徒や学生には社会課題の解決につながるサービスのプロトタイプの開発が求められた。参加者204人38チーム中、最優秀作品に贈られる大賞を手にしたのはメンバーのほとんどがプログラミング未経験者だという中高生チーム「gkadc(ぐんま国際アカデミー中高等部 デジタル委員会)」だった。どのようにして優れたプロトタイプを開発したのか。
コード・フォー・ジャパンは2021年5月からCCC U-22のプログラムを開始した。CCC U-22はコロナ禍でインターンシップなどの機会を失った学生に開発経験などを積む機会を提供することを目的に、学生が企画・運営するハッカソンだ。学生の学習・成長機会も重視しているためワークショップを受講する期間を設けている。エントリーした学生は開発手法を学んだうえで開発に挑むというわけだ。この一連の活動は、デジタル庁が優れたデジタル化の取り組みを表彰する「デジタル社会推進賞」 の「デジタルの日」奨励賞にも選ばれている。
ワークショップでは、課題を見つける手法や企画立案、ユーザーリサーチ、UI/UXなどを体系的に学べる。エントリー前には課題への視点を育てるために防災・まちづくり、循環型社会、ジェンダーなどをトピックとした勉強会が開かれた。
「つながる意見箱」、デジタルで学校生活の課題解決
大賞を獲得したgkadc(ぐんま国際アカデミー中高等部 デジタル委員会)は、群馬県太田市のぐんま国際アカデミー中高等部のデジタル委員会有志で構成するチームだ。同校は、太田市外国語教育特区構想に基づいて設立された小中高一貫校である。そのため、同チームの所属メンバーは中学3年生から高校3年生までと幅広い。
デジタル委員会は2021年4月に発足し、校内の課題解決にデジタルを活用することを目指している。委員会活動を進める中で、生徒の不満や意見を集める方法に課題を見いだした。
既存の意見収集手段はホワイトボードとGoogleフォームの2つ。ホワイトボードは誰でも気軽に意見を書け、他人の意見も見ることができる。しかし、勝手に消されたり、乱雑に書き込まれたりすることもあり、内容の把握が難しいという課題もあった。一方Googleフォームの場合は、皆の意見が横並びで見えない点が懸念要素だった。
そこで、デジタル上でも意見のつながりを可視化する方法を考えた結果、今回受賞した「つながる意見箱」のプロトタイプが生まれた。生徒はGoogleフォームやLINEを通じて意見を投稿。投稿した意見は似た意見と線でつながる形で 米Miro(ミロ)のオンラインホワイトボード「Miro(ミロ)」上に表示される。投稿者にはミロのリンクが共有されるため、リンクを経由して他の生徒の意見も確認できる。
例えば生徒がLINEで意見を投稿する場合、公式アカウントのチャットボットに「校舎に自動販売機を設置してほしい」と意見を投稿する。チャットの画面には、ミロを閲覧できるリンクが共有されており、このリンクからミロの画面に遷移する。ミロ上では、「自動販売機を増やしてほしい」などの近い意見と線でつながれた投稿を確認できるというわけだ。 投稿者だけでなく、生徒会などの受け取る側も意見の多いトピックを確認できるため、課題解決の優先度もつけやすくなる。