AGCは、全社横断のDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組んでおり、熟練工の知見を集約したナレッジデータベースの構築や業務情報の一元管理を進めている。板ガラスや高機能樹脂などを製造する同社鹿島工場(茨城県神栖市)でも、生産現場業務のデジタル化や自動化が進む。例えば、高機能樹脂の重合加工(樹脂材料加工)ラインでは、紙ベースだった帳票をデジタル化して生産管理業務の効率化を実現した。
現場の状況が一目で分かる
鹿島工場の製造課では、樹脂材料の重合加工工程での流量や温度、圧力といったデータを見ながら、生産状況やラインの運転状態を管理しており、トラブル発生時にはそれらのデータを遡って確認してトラブルの内容や原因を分析する。従来、それらのデータは紙の帳票や手書きで運用していたが、そのデータ収集を自動化し、デジタルデータとして閲覧・分析できる環境を整えた。
具体的には、AGC千葉工場(千葉県市原市)が設備点検のシステムとして既に導入していたテクノツリー(兵庫県明石市)の電子帳票システム「XC-Gate」を導入。XC-Gateシリーズの中のPLC連携システムである「XC-Gate.PLC」を採用し、電子帳票データと、鹿島工場の生産ラインを統合制御するPLC(Programmable Logic Controller)とのデータ連携を進めた。
2020年1月ごろから本格検討を開始し、20年3月までに、社内システムとの連携やPLCの通信仕様を決めるとともに、テクノツリーとモニタリング画面のユーザーインターフェース(UI)設計や現場向け機能開発を進めた。XC-Gate.PLCを使ったPLC連携システムとして、生産状況や工程ごとの運転データをロット管理できるようシステムを構築。帳票を電子化し、生産管理、品質管理、設備管理、日報といった各種データの閲覧環境を一元化した。
システム構築に当たっては、従来のホワイトボードに記載していたデータ管理をどう再現するかというUI設計に苦心したが、「結果としては意図通りにうまく仕上がった」(製造課の担当者)。
年間5万枚の紙を削減
帳票のデジタル化により、トラブル発生時のデータ確認時間が短縮でき、分析データの傾向把握の効率が高まったという。作業者や管理者は、工場内に設置した大型スクリーンや事務所のPCから設備の稼働状況や生産の進捗などをリアルタイムに把握したり、すぐにデータ入力したりできるようになった。現場の紙削減も着々と進んでおり、「記録紙換算で、年間5万枚ほどの削減が見込めると想定している」(製造課の担当者)。
収集したデータはWebブラウザーで閲覧できるため、遠隔でのライン稼働監視やトラブル確認、原料の残量確認が可能になり、管理作業の工数削減や効率化にもつながった。「現場と事務所のある建屋とが500mほど離れているため、自席のPCからすぐに現場の状況を把握できるメリットは大きい。現場の日誌の確認や承認も自席でできるようになり助かっている」(施設部の担当者)。
製造課の担当者も、「以前は、現場に紙を持っていって、担当者に口頭で聞き取りをしながら状況把握をしなければならなかったが、今は自分のPCを開けばすぐに調べられるようになり、利便性を実感している。そうした実感や効果の積み重ねが、現場の大きなストレス軽減にもつながるだろう」と語る。