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 標準準拠システム移行のために、移行期間を設けてほしい――。デジタル庁が推進する移行のスケジュール案に対し、全国20の政令指定都市でつくる指定都市市長会から待ったの声が上がった。原則すべての自治体は、2025年度末までに標準準拠の自治体システムへ移行しなければならないというものだ。

 指定都市市長会はデジタル庁と総務省に対して近く「自治体情報システムの標準化・共通化に関する指定都市市長会提言」を提出する。デジタル庁は、システム移行に必要なデータ要件や連携要件などを自治体に対して示すのは2022年夏としている。これに対し、提言では、システム開発・移行に伴う業務フローの見直しや業務改革(BPR)などがそれまで進められず、住民サービスに支障が出るとの懸念から2025年度末にこだわらず、移行期間を設けるように求めている。

 提言の取りまとめに携わった千葉市情報統括副管理者(CIO補佐監)を務める山田隆裕総務局次長は「理想を言えば通常の更改時期に合わせてシステム移行を行うのが合理的ではないか。段階的な移行ができるよう、例えば『5年間は経過措置を取る』などと現状の計画段階から提示してほしい」と話す。

 自治体システムの標準化を巡っては、2020年9月に菅義偉首相(当時)が、自治体ごとに異なる行政システムを2025年度末までに統一するよう指示。2021年9月発足したデジタル庁が中心となり、自治体情報システムの標準化・共通化を進めている。自治体基幹システムを利用する住民記録や税、福祉といった17業務と戸籍などの3業務を合わせた合計20業務に関連する情報システムを、国が定める標準準拠システムに移行する。このうち可能な部分は、デジタル庁が整備し地方自治体や中央省庁が共同利用するクラウドサービス「ガバメントクラウド」を利用する。

事業者の見積もりが1.5倍に高騰

 指定都市市長会が2025年度末までにこだわらず移行期間を設けてほしいと求めた背景は2点ある。1点目は、デジタル庁が示す標準仕様の公開時期が現在のスケジュール通りだと、システム移行に間に合わない可能性があることだ。

 標準仕様の一部は策定が進み自治体の意見交換も行われているが、自治体がシステム移行する際の全体設計に必要な、データ要件や連携要件はまだ示されていない。デジタル庁が提示したスケジュールでは、2022年春に案を自治体などに示し、夏ごろに標準仕様を決定するとしている。

 これに対し、千葉市総務局情報経営部情報システム課の小林崇課長は、「2025年度末までに移行するには、2022年度にシステムの全体設計をする必要がある。案の段階でもよいので2021年度内に共通機能の仕様を公開してほしい。8割くらいそれで固まっているのなら作業が進められるが、案もない段階では2022年度内の全体設計作業は難しい」と指摘する。

 2点目は、システム開発・移行作業を行うコンサルティング事業者やITベンダーなどの事業者が持つリソースが不足したり、費用が高騰したりする可能性である。全国に約1700ある自治体が一斉に2025年度末を期限として作業を進めることで引き起こされる懸念がある。千葉市では2022年度からの全体設計に向けたコンサルティングの準備を足元で進めているが、「全体的に費用が上がっている。見積もりを取ると単価が従来の1.5倍くらいだった」(小林課長)。