全1422文字
PR

 物に触れた際の力触覚データを保存し、いつでもどこでも動作を再現できるようにする「リアルハプティクス技術」の利活用が前進している。活用が加速している背景に、少子高齢化による人手不足や、新型コロナウイルス禍での移動の制限などがある。

 リアルハプティクス技術は、触感を数値化して記録したり、遠隔地に伝送して再現したりできる技術である。慶応義塾大学 グローバルリサーチインスティテュート 特任教授の大西公平氏が2002年に発明した。14年には慶応義塾大学 ハプティクス研究センターを設立。社会実装を目指し、工場や建設、医療などの用途で開発を進めている。

 慶応大や大林組などは、21年3月から、左官作業における手の動きや力、力触覚を再現可能なシステムを開発した。実現したのは、モルタルをコテで壁に塗る作業(左官)を再現できる技術だ。左官はこれまで、熟練の技能労働者が手作業で仕上げてきた。

 一方で課題になっているのが、建設業界での人手不足の深刻化だ。若手技能者が不足しているものの、ロボットによる自動化が難しかった。ロボットに力加減を伝えられなかったからだ。両者は技能者が移動しないでも、遠隔で左官作業できる技術を開発。「21年7月には、東京・大阪間での遠隔伝送の実証実験に成功した」(大林組 技術本部技術研究所 ロボティクス専門士の上田尚輝氏)という(図1)。

図1 技能労働者が移動なしで左官作業可能に(出所:大林組)
[画像のクリックで拡大表示]
図1 技能労働者が移動なしで左官作業可能に(出所:大林組)

 具体的なシステムの流れはこうだ。まず、職人がいるマスター側と、コテを実際に動かすスレーブ側を遠隔で接続する。マスター側に設置したモニターに、スレーブ側のコテが動く様子を映す。職人はモニターの画面を見ながらコントローラーを動かし、左官作業を進める。スレーブ側のコテはコントローラーの動作に対応して動き、力の入れ具合やコテの角度などをリアルタイムに再現する。

 大林組は今後、リアルハプティクス技術と画像認識技術を組み合わせることで、大量の技能者が必要になるビルの内装工事などの自動化を目指す。

遠隔医療に触覚を提供へ

 慶応大の大西氏によると、リアルハプティクス技術は、今後医療の分野にも広がるという。既に、同大学と北海道大学は、21年3月から遠隔で触診できる技術の開発を目指し、実証実験進めている。狙うのは医療格差の解消だ。「近いうちに、北海道の山間部の患者を東京都内から遠隔触診できるようになる」(大西氏)とする。