2050年の交通事故死亡者ゼロを掲げるホンダが、目標達成に向けて重点開発する技術が見えてきた。注力するのは、交通事故の危険性が高まる前にリスクを先読みし、回避すること。21年11月25日に、2つの将来安全技術を初公開した(図1)。自動運転「レベル3」のような派手さはないが、死亡事故を減らす上で重要な役割を担う。
「これまでの安全技術はリスクに直面してから対処するものだった。死亡事故ゼロを実現するには、リスクが高まるのを未然に防ぐ技術が欠かせない」。こう訴えるのは、ホンダで安全技術開発を主導する髙石秀明氏(ホンダ経営企画統括部安全企画部 本田技術研究所先進技術研究所安全安心・人研究ドメイン エグゼクティブチーフエンジニア)である(図2)。
リスクに直面した際に機能するのが「Honda SENSING」に代表される先進運転支援システム(ADAS)である。ホンダは次世代ADAS「Honda SENSING 360」を22年に実用化し、30年には中国を含む先進国(日本・米国・欧州)で発売するすべての新型車に搭載する計画である。
ホンダはADAS機能の進化や搭載車種の拡大に加えて、2輪安全技術の普及拡大や安全教育技術の展開などを進めることで、「30年に全世界でホンダ車が関与する交通事故死者を半減する」(同社)という中間目標を設定した。
死亡事故ゼロの鍵はヒューマンエラー
今回発表した2つの技術は、その先の50年の交通事故死亡者ゼロを見据えたもの(図3)。ホンダが着目したのはヒューマンエラーの削減である。運転者に限らず、道路を利用する歩行者や自転車といった交通参加者は時として、不注意や判断ミスなどによって交通事故のリスクを高める。
1つめの技術は、運転時のヒューマンエラーゼロを目指すHMI(ヒューマン・マシン・インターフェース)技術である。ホンダは「知能化運転支援技術」と呼ぶ。AI(人工知能)が運転中のリスクを検出するとともに最適な運転行動をリアルタイムで導き出す。その結果をもとに、リスクを最小化するように運転者に情報を伝達する。伝える情報の内容や手段を「運転者1人ひとりに合わせて変える」(ホンダのHMI開発担当者)点が新しい。
ホンダが報道陣に公開した1例が、路上駐車している車両の陰から歩行者が飛び出してくる可能性がある場合だ(図4)。まず、車両周辺を監視するカメラの情報をAIで処理し、「歩行者が飛び出してくるかもしれない」シーンと推定する。同時に、車内に搭載したカメラで運転者の視線をトラッキングする。
歩行者が飛び出してくる可能性のある場所を運転者が目視していないと判断すると、シートベルトを巻き取って動かすと同時に、メーター上部に配置したLED照明「リスクインジケータ」を光らせて危険を知らせる。
ポイントは、事故のリスクを運転者が把握した時点でHMIによる警告を止める点である。今回のデモでは、路上駐車の場所を目視したところでシートベルトの動きが止まり、LED照明は消灯した。「あらかじめリスクを認識できた場合は警告を出さない」(同担当者)という。