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 ドイツ化学大手BASFは、数秒で有機物の成分を解析するサービスの提供を2021年10月から日本向けに始めた。赤外線センサーを搭載した小型の測定機器、人工知能(AI)を活用した解析システム、解析結果を表示するスマートフォン向けアプリケーション(アプリ)などから成る(図1)。リサイクルしたいプラスチックの種類の判別や、暗黙知化している飼料の品質管理などへの活用を想定する。

図1 有機物の成分を解析する小型の近赤外分光器(右)と解析結果などを表示するアプリ(左)
図1 有機物の成分を解析する小型の近赤外分光器(右)と解析結果などを表示するアプリ(左)
(出所:日経クロステック)
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 「近赤外分光法」で有機物の成分を解析する。近赤外光を測定対象の物質に照射すると、各物質は固有の波長の光を吸収する。特定の波長を吸収した反射光を分析すると測定対象の成分が分かる。

 BASF子会社のドイツtrinamiX(トライナミクス)は、同手法を用いて物質を分析する近赤外分光器を、片手で持てるサイズに小型化した(図2)。一般的な近赤外分光器の大きさは幅が1m前後と大きく、据え置き型だ。小型化の肝は、反射光を検出するセンサーの保護方法にある。水分や酸素で劣化するため、従来はセンサーを保護する容器が必要だったが、同社は独自の薄膜封止技術で保護容器を不要にした。

図2 trinamiXが独自の薄膜封止技術で薄型化したセンサー
図2 trinamiXが独自の薄膜封止技術で薄型化したセンサー
近赤外分光器に組み込まれ、測定物質が反射した近赤外光を検出する。(出所:BASFジャパン)
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 近赤外分光器で測定した波長データを見て、利用者が有機物の種類を特定するのは難しい。そこでBASFは波長データをAIで解析するクラウド上のソフトウエアと、人間が理解しやすい形で解析結果を見せるスマホ向けアプリを提供する

* 測定履歴は専用のウェブサイトから確認できる。

 ソフトウエアとアプリは複数の用途を想定し、各種用途に合った解析結果を得られるようにした。例えば、ペットボトルのキャップは同じブランドの製品でも製造工場や製造時期により、ポリエチレン(PE)のこともあれば、ポリプロピレン(PP)のこともある。これを判別したい場合は、スマホアプリから「プラスチック」のアイコンを選び、近赤外分光器をキャップに押し当てて計測ボタンを押す。すると、プラスチックの種類が解析結果として表示される。

 プラスチックが生分解性か否かを調べたい場合は、「生分解性」のアイコンを選ぶ。図3はある市販のスポンジの硬い面を調べたところ。近赤外分光器を表面に押し当てて計測すると、数秒で生分解性プラスチックとの結果が得られた。一方、生分解性でないプラスチックを測定すると、生分解性ではないという結果と共に、プラスチックの種類が分かった(図4)。

図3 BASFの近赤外分光器でスポンジ表面の樹脂が生分解性だと確認
図3 BASFの近赤外分光器でスポンジ表面の樹脂が生分解性だと確認
測定後、数秒で生分解性か否かの結果がスマホアプリ上に表示される。(出所:日経クロステック)
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図4 一般的なプラスチック包装を「生分解性」のモードで解析した結果
図4 一般的なプラスチック包装を「生分解性」のモードで解析した結果
生分解性がない(Biodegradable:No)こと、測定対象が低密度ポリエチレン(Material:PE、Detail:LDPE)であることが分かった。(出所:日経クロステック)
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 プラスチック関連の解析ソフトはBASFに蓄積したプラスチックのデータをAIに学習させて開発した。さらに同社は、自社にないデータについて他社として連携し、用途の拡大を図っている。既に拡張した用途の1つが畜産業における飼料分析だ。