かさ上げ操作をやめて矛盾が浮き彫りに
日経クロステックの既報の通り、三菱電機はJISの許容する「緩い誤差」、具体的には空調能力10%減と消費電力5 %減の許容域を自社に都合良く使ってCOP値のかさ上げ操作を行ってきた(13年当時のJIS規定)。これを最大限利用すれば、2割弱のかさ上げが可能となるという。だが、「12年に業界1位のダイキン工業が空調能力10%減によるCOP値のかさ上げをやめた。この動きに三菱電機は1年遅れで追随した」(関係者)。
つまり、13年グランマルチは空調能力10%減によるCOP値のかさ上げ操作をやめた値(消費電力5%減によるCOP値のかさ上げは継続)なのだ。かさ上げを部分的にだが改めた結果、三菱電機は定格COP値をより正しい値で示さざるを得なくなった。その結果、以前よりも省エネ設計に力を入れた製品であるにもかかわらず、定格COP値は前モデルよりも低下した。これにより、11年モデルの開発において、同社が省エネ性能でかさ上げ操作を行っていたことがばれてしまったというわけである。
「物理的に説明不可能」なAPF値とCOP値の関係
三菱電機の製品仕様には、突(つつ)かれたくないもう1つの矛盾がある。APF(通年エネルギー消費効率)値の不可思議な変化だ。
APFは、1年を通して、ある一定の条件の下で使用した場合の消費電力量1kWh当たりの冷房・暖房能力(kWh)のこと。要は、COPよりも顧客の実際の使用状況に近づけた省エネ指標である。APF値は定格COP値とほぼ連動しており、「定格COP値の増減に対して、APF値はその半分程度で増減する」(関係者)という。例えば、定格COP値の増減差が10%程度なら、APF値の増減差は5%程度になるといった具合だ。
11年モデルのAPF値を見ると「5.4」となっている。これに対し、13年グランマルチのAPF値は「5.6」と、0.2ポイント増えている。しかし、先の通り定格COP値は0.31ポイント下がっているのだから、APF値も下がらなければおかしい。定格COP値が落ちたのに、APF値が上がるというのは「物理的に説明不可能」(関係者)だからだ。
この矛盾をごまかすかのように、三菱電機は「APF値を優先したので定格COP値が下がったと説明して顧客に販売した」(関係者)という。13年グランマルチのAPF値は高い数値となったため、同社はそれを前面に押し出して宣伝した。ところが、それが逆に定格COP値の低下という矛盾を目立たせてしまった。そこで、同社は詭弁(きべん)を弄し、COP値にもAPF値にも詳しくない顧客を言いくるめようとしたということだろう。
だが、もう言い逃れはできそうにない。三菱電機がカタログに記載した11年モデルの定格COP値が実力値から大きくかい離しているという、悪質な行為が露呈したからだ。「11年当時のJISの詳細は分からないが、少なくとも13年時点におけるJISの許容値(1.2倍)を超えている可能性も否めない」(関係者)。