全3218文字
PR

 マツダは、運転者に異常が生じたときに車両を安全な場所に自動で退避させる技術を2022年から量産する計画だ。「人間中心」の考えで自動運転技術に取り組み、「ドライバーレス(運転者なし)」をもくろむ「ITジャイアント」と一線を画す。小規模なマツダとしては同じ土俵で勝負するのは避けて、自動運転時代にも一定数は残ると見込む「車好き」の事故削減に力を注ぐ。

21年12月、マツダは都内の公道で自動退避技術を実演した。(撮影:日経クロステック)
21年12月、マツダは都内の公道で自動退避技術を実演した。(撮影:日経クロステック)
[画像のクリックで拡大表示]

 「人の状態検知が一丁目一番地」(マツダ商品戦略本部技術企画部主査の栃岡孝宏氏)――。

 マツダが21年11月に発表した運転支援技術「CO-PILOT(コパイロット、航空機の副操縦士を指す)」の開発を率いる栃岡氏は、人の運転を前提としながら事故削減を目指す考えを強調した。人が運転に関わらない「レベル3」以上の自動運転とは距離を置く。

 交通事故の多くは、運転者の不注意や異常に起因する。米Alphabet(アルファベット)傘下のWaymo(ウェイモ)などITジャイアントは、運転者の介在しない「レベル4」「同5」の完全自動運転を目指し、事故削減を図る。運転に人が関与することが、そもそもの問題と考えるわけだ。

 一方でマツダは、運転行為そのものには価値があるとみており、なくす発想にくみさない。運転者の不注意や異常を検知することで車両側を制御し、事故を防ぐことを目指す。その実現に向けた第一歩がコパイロットであり、中核技術が運転者の異常検知となる。25年以降には検知にとどまらず、運転者の脳機能低下を予測する技術を実用化することも目指す。

 栃岡氏は、運転者の異常を予測できれば「死亡重傷事故を3割減らせる可能性がある」と利点の大きさを説明する。高齢化が進む日本では運転者の異常に伴う事故は「10年後に大ごとになるのではないか」との強い危機感も併せて訴えた。

 マツダが「ドライバーレスカー」の開発と距離を置くのは、ITジャイアントがこぞって挑む開発競争にマツダの規模で参戦するのは難しいとの冷静な判断もあるはずだ。ウェイモや中国IT大手の百度(Baidu)などに比べると、資金力やソフトウエア開発力に大差がある。マツダが「ドライバーあり」という「異なる土俵」を模索するのは、自然な競争戦略といえる。

 さらにマツダは、完全自動運転車が公道を自由に走れる時代の到来にはしばらく時間がかかるとみる。「現状の技術を使って事故を減らす」(栃岡氏)には、コパイロットのように運転者の異常検知と自動退避機能の組み合わせが効果的だと考える。

都内の公道で走らせたコパイロットを搭載した試作車(マツダ3を改造)。車両上部やサイドミラーなどにカメラを搭載している。(撮影:日経クロステック)
都内の公道で走らせたコパイロットを搭載した試作車(マツダ3を改造)。車両上部やサイドミラーなどにカメラを搭載している。(撮影:日経クロステック)
[画像のクリックで拡大表示]

 ただしマツダにとって将来大きなリスクになり得るのが、自動運転技術が広がるにつれて、「手動運転車」が交通流を乱す危険車両とみなされて排除されかねないことだ。電気自動車の普及のために環境性能の高いハイブリッド車までも排除しようとする昨今の極端な風潮からすると、十分にあり得る未来だ。

 マツダは運転行為が健康寿命の延長につながるとし、「運動」と同様に価値が高いものと訴え始めた。例えば運転をやめた人は運転を続けている人と比較して、要介護認定のリスクが2.16倍になるという筑波大学の調査結果を示す。また運転している高齢者は、認知症のリスクが37%減るという国立長寿医療研究センターの調査も披露した。ドライバーレスカーだけでは「運転」の正の側面が消え去るというわけだ。