フィーチャーフォン(いわゆるガラケー)全盛期の2000年代、際だった耐水・耐衝撃性能を備えるなど、異彩を放った携帯電話があった。KDDI(au)向けにカシオ計算機(以下、カシオ)が開発・製造した「G'zOne」である。カシオの腕時計ブランド「G-SHOCK」にちなみ「G-SHOCK携帯」とも呼ばれ、熱烈なファンを生んできた。ところがカシオの通信事業からの撤退により12年に幕を閉じ、そのまま歴史の1ページとして埋もれていくかに思われた。
そんなG'zOneが異例の復活を遂げた。KDDIは21年12月10日から、9年ぶりとなるG'zOneの新機種「G'zOne TYPE-XX」を発売する。カシオが通信事業を再開したわけでもないのに、なぜG'zOneは復活できたのか。現在もG'zOneを使い続ける熱狂的な利用者の声に加えて、カシオと京セラという2社の異例のタッグが、奇跡の復活を後押しした。
KDDIの3G停波が契機、4年がかりで復活へ
9年ぶりの新作となった「G'zOne TYPE-XX」は、伝説のブランドに恥じないタフネスケータイに仕上がっている。バンパーを備えた武骨な折り畳み形状から、初代G'zOneの「C303CA」を思い出させる円形の外部ディスプレー、高さ1.8mからの耐衝撃性能、防水、防じん、低圧対応、耐氷結、耐日射、防湿、塩水噴霧に至るまで、往年のカシオ携帯のファンをとりこにするスペックやデザインが満載だ。キャンプや登山、農業、釣りなど、過酷な環境下で携帯電話を使うにはもってこいの性能を持つ。
G'zOne復活に至るまで、実に約4年の歳月がかかったという。「山あり谷ありの奇跡のプロジェクトだった」と、G'zOne復活を仕掛けたKDDIパーソナル企画統括本部プロダクト企画部企画1グループリーダーの近藤隆行氏は打ち明ける。
プロジェクト開始の一つの契機となったのが、22年3月末に予定するKDDIの3Gサービス停波だ。同社の3G専用携帯電話は、22年3月末以降、通信できなくなってしまう。そんなKDDIの3G専用端末を使う利用者の中に、かつてのG'zOneを使い続けるユーザーが少なからずいた。
「今でもG'zOneを使っている利用者の98%がフィーチャーフォンのまま使い続けている。根強いファンが多く、G'zOne(W42CA)を15年間利用している人もいた。タフネスケータイであるため、長く使い続けられているという理由もあるのだろう」と近藤氏は語る。
同社が3Gサービス終了をアナウンスしたところ、「G'zOneがあるからauを使っている。3G停波でG'zOneが使えなくなるのであれば他社に移る」といった声がSNSで続出したという。KDDIの調査によると、G'zOne利用者による同一ブランド・同一メーカーを使い続けたいという希望は、全体平均と比べて約5倍と、他ブランド・他メーカーの利用者と比べて突出して高かった。「なんとかしてG'zOneの熱烈なファンの期待に応えたい」――。そんな思いから、KDDIは17年末、G'zOneの復活に向けて動きだす。