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 日産自動車が栃木工場に導入した「ニッサンインテリジェントファクトリー」(以下NIF)は、同社が開発した最新の生産技術を数多く組み込んでいる。既にSUV(多目的スポーツ車)タイプの新型電気自動車(EV)「アリア」をNIFで造り始めており、同社執行役副社長で生産・SCM担当の坂本秀行氏が「明日の日産の飛躍の要になる」とするほどだ。今回は、車両組み立てなどにおける自動化を紹介する。

 NIFでは自動化を進めるため、多くのロボットを導入している。ポイントは「匠(たくみ)の技の伝承」と「人との協働」。塗装工場でも多関節ロボットが活躍していたが、組立工程の各所でもロボットを活用した自動化が進んでいる。

パワートレーンを一括搭載

 組立工程の自動化を支える代表的な新技術が、「SUMO(Simultaneous Underfloor Mounting Operation)」と名付けたパワートレーン一括搭載システムだ(図1)。1つの生産設備で幅広い車種の混流生産を可能にする生産技術で、現在生産するアリアの4種類のパワートレーン仕様(バッテリーと駆動方式の組み合わせ)も1つの設備で対応できる。

図1 パワートレーン一括搭載システム「SUMO」
図1 パワートレーン一括搭載システム「SUMO」
エンジンやアクスルなどの重量物の組み付けは従来、複数工程に分かれており、しかも作業姿勢が高負荷だった。NIFではパレット上に配置したパワートレーンの全ユニット部品を一気に自動組み付けする。(a)はパレットを持ち上げる前、(b)はパレットを持ち上げて各ユニットをロボットで組み付けている様子。(出所:日経クロステック)
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 SUMOはエンジンやモーター、アクスル、燃料タンク、バッテリーといったパワートレーンのユニットをボディー(車体)に組み付ける工程を担う。従来は、これらの重量物をリフターに載せて持ち上げ、作業者が位置合わせして手動で組み付けていた。腰を曲げて上を向くといったように作業姿勢の負荷が高い。加えて、従来は6つの工程で部品単位の組み付けを行っており、新車投入ごとに設備の大幅な改造が必要という課題もあった。

 これらの課題を一気に解決するために開発したのがSUMOだ。パワートレーンの各ユニットをパレット上にあらかじめ配置しておき、ハンガーにつるされた車体の下側からパレットを上昇させて一気に組み付ける。その後、ロボットによって54本のボルトを締め付け、各ユニットを固定していく。

 SUMOの開発プロジェクトは、企画・構想から立ち上げまでに5年、要素開発検証項目が376件、車両構造要件が339件という規模だった。車両構造要件とは、SUMOを実現する上で必要な車両設計面での対応だ。

 例えば、ユニットを車両に組み付ける際、従来は斜め方向にボルトを締め付ける必要があったが、アリアでは真下からストレートに締め付けられるようにした。こうした車両構造要件は、今後の新車開発でも踏襲する。

 SUMOはアリアの4仕様だけにとどまらず、「e-POWER」搭載のハイブリッド車やガソリン車にも対応できる。これを支えるのが、パワートレーンの各ユニットを載せるパレットのモジュール化だ。

 SUMOのパレットは、全車共通のベースパレットの上に、フロント/センター/リアの3種のパレットを組み合わせる2層構造とした(図2)。例えばフロントのパレットには、エンジンやトランスミッション、モーター、フロントアクスルの搭載を想定する。上層のパレットを入れ替えれば、同一工程でさまざまな車種を混流生産できる。

図2 SUMOのパレット2層構造
図2 SUMOのパレット2層構造
全車共通のベースの上に、フロント/センター/リアの3枚のパレットを載せる構造でさまざまな車種に対応できるようにしている。(出所:日産自動車)
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 SUMOはユニット搭載時の位置精度を高める仕組みも備える(図3)。パレット上に固定されているユニットに対して、ハンガー上の車体は微妙に姿勢が傾く場合があるためだ。この差を補正する。

図3 ユニット搭載の位置精度調整
図3 ユニット搭載の位置精度調整
ハンガーで搬送される車体の姿勢がベースパレットに対して微妙にずれている可能性がある。そのため、車体姿勢を画像計測し、その結果に応じて3枚のパレットの位置を調整する。(出所:日産自動車)
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 具体的には、車体の下にパレットを搬入した直後、画像計測によって車体の向きを把握。そのデータに基づいて、パレットに搭載したクランプを動かし、上層のパレット3枚の位置をそれぞれ調整する。これにより、±0.05mmの精度で位置を補正できる。