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研究歴は70年近いが成果が出始めたのは10年前

 Cu2O太陽電池は、銅(Cu)箔というありふれた材料を基にすることで低コストに製造できると見込まれたことから、古くは1950年代から研究されていた。ところが、2010年までは変換効率は2%台がやっとだった。2011年3月に金沢工業大学がようやく変換効率3.26%を達成。同大学はその後、2012年に同5.38%、2015年に同6.1%、2017年には8%台と急速に変換効率を高めてきたが、この4年間は足踏み状態だった。

 この停滞を破ったのが今回の東芝の発表だ。同社は銅箔ではなく、反応性スパッター装置という半導体では低コストの部類の技術でCu2O層を成膜する。同社が2019年に発表したCu2O太陽電池の変換効率は4.4%だったが、3年足らずで2倍近くに性能を引き上げた。この性能向上は「Cu2O発電層の成膜条件を最適化し、Cuや酸化銅(CuO)といった不純物を抑制した」(東芝)ことで実現したという。

東芝が開発した変換効率8.4%のCu<sub>2</sub>O太陽電池と競合セルの比較
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東芝が開発した変換効率8.4%のCu2O太陽電池と競合セルの比較
外部機関は、日経クロステック調べで金沢工業大学とみられる。変換効率では大差がないが、金沢工業大学のCu2O層は可視光にはほぼ不透明で、タンデム型太陽電池には向かない。(図と写真:東芝)

役割分担で高効率低コストを実現へ

 Cu2O太陽電池の理論上の変換効率は約20%とさらに高いが、東芝が主に想定するのは、この太陽電池を単独で使うよりむしろ、結晶Si太陽電池の上に張り付けて使う4端子タンデム太陽電池としての利用だ。

 理由は、Cu2Oのバンドギャップが2.2~2.6eV。ナトリウム(Na)などを添加しても2eV前後と広いことによる。これは、太陽光のうち、青色~橙(だいだい)色とやや波長が短めの光を吸収して電力に変換することに向いていることを意味する。

 対して、結晶Siはバンドギャップが1.1eVと狭く、橙色~近赤外線が発電に使われている主な波長帯だ。この2種類の材料を用いた太陽電池を組み合わせることでより幅広い波長の光を発電に利用できる。東芝によれば、理論上の変換効率は38.3%だとする。

 化合物半導体を用いた太陽電池ではそうした超高効率を既に実現しているが、価格は一般の太陽電池の数十~数百倍と非現実的なほど高い。一方、Cu2O太陽電池と結晶Si太陽電池から成る4端子タンデムであれば、価格の上昇を最小限に抑えたまま、変換効率を高められる可能性がある。

耐久性の高さでペロブスカイト太陽電池に対抗

 ちなみに、結晶Si太陽電池との4端子タンデムでは、東芝も開発中のペロブスカイト太陽電池が一足早く変換効率30%台を達成済みだ。同27%ぐらいの2端子タンデム製品は、2022年初頭にも英国のベンチャーOxford PVが量産を始める段階になっている。

 ただし、ペロブスカイト太陽電池は耐久性の低さが課題。「ペロブスカイト太陽電池は、(水や酸素に弱くて)封止をしなければすぐに劣化して使えなくなるが、このCu2O太陽電池には大きな劣化要因がなく、封止なしでもしばらくは利用できる可能性がある」(東芝)。具体的な耐久性のデータはまだないようだが、耐久性の高さがペロブスカイト太陽電池に対する優位点になりそうだ。

 東芝はペロブスカイト太陽電池とのすみ分けについて、「ペロブスカイト太陽電池は当面単独(単接合)で使い、(コストの安さを生かして)建物など動かないものを幅広くカバーする。一方、このCu2O太陽電池は結晶Si太陽電池との4端子タンデムでその出力の高さを生かして、クルマなど動くもの、つまり各種モビリティーに適用していく」(同社)とした。