全1404文字
PR

 車載AI(人工知能)ソフトウエアを手掛ける米StradVision(ストラドビジョン)は、単眼カメラの画像から距離画像(デプスマップ)を生成する「疑似LiDAR」と呼ぶ技術を量産化する。2023年に欧州の高級車メーカーがAR(拡張現実)対応のHUD(ヘッド・アップ・ディスプレー)に採用するという。

単眼カメラの画像からAIで距離画像を生成
単眼カメラの画像からAIで距離画像を生成
右上が単眼カメラの画像、右下が距離画像、左が3次元プロット。(出所:ストラドビジョン)
[画像のクリックで拡大表示]

 レーザー光を使って距離を測定するLiDAR(レーザースキャナー)は、計測精度が高い半面、システムの小型化や低コスト化が難しいとされる。一方、疑似LiDARは、LiDARの計測データを基に学習させたAIを使い、単眼カメラの画像から距離を推定する。ADAS(先進運転支援システム)用のフロント単眼カメラを搭載した車両ならば、ソフトを追加するだけで疑似LiDARを実現できるなど、システムの小型化や低コスト化に向く。

ストラドビジョン技術アドバイザーの星泰彦氏
ストラドビジョン技術アドバイザーの星泰彦氏
もともとルネサスエレクトロニクスで車載SoC(System on Chip)「R-Car」シリーズの企画やソフトを手掛けていた。21年3月にルネサスを定年退職し、同年6月からストラドビジョンで技術アドバイザーを務めている。同氏によると、ストラドビジョンはハード(SoC)の演算リソースを有効活用するノウハウにたけているようだ。R-Car上でAIソフトを動かす場合、通常は演算器の使用率が10%ほどだが、ストラドビジョンのAIソフトは60~70%に達するという。(出所:ストラドビジョン)
[画像のクリックで拡大表示]

 ただ、疑似LiDARで得られる距離精度は「LiDARよりも10%ほど劣る」(ストラドビジョン技術アドバイザーの星泰彦氏)という。これはLiDARの計測データを基にAIを学習させているためである。また、疑似LiDARで計測できる最大距離は、現状では70mほどにとどまる。より長距離の計測が可能なLiDARを使ってAIを学習させれば、将来的には数百m先までの距離画像を生成できる可能性があるという。

 疑似LiDARは、AIの推論処理が重いという課題もある。演算リソースの限られた車載システムでは使いにくいのだ。「公開されている疑似LiDAR用のニューラルネットワークの場合、AIの推論処理に約60TOPS(毎秒60兆回)もの演算能力が必要になる」(同氏)。現在の車載SoC(System on Chip)は、高性能品でも数TOPSの演算能力しかなく、処理が追いつかない。複数の車載SoCを使うなどして60TOPS以上の性能を実現することは技術的には可能だが、コストが高くなってしまう。

 これに対し、ストラドビジョンはAI推論時の精度をあまり落とさずに「約5TOPSで処理できる疑似LiDAR用のニューラルネットワークを開発した」(同氏)。同社はもともとAI推論精度を維持したまま、ニューラルネットワークを簡素化する技術に強みを持つ。5TOPSの演算能力は、現状の車載SoCでは厳しいが、23年ごろの次世代SoCなら可能といえる。疑似LiDARの最初の量産適用が、23年の高級車向けAR対応HUDというのは、そのような事情による。