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 「不正を隠蔽するための作文だ」──。三菱電機の内情を知る関係者はこう断じる。品質不正問題について、三菱電機が業務用エアコンの性能不正の隠蔽を図ったと思われる回答を、外部調査委員会(以下、調査委員会)にしていたことが分かった。不正問題を追及する調査委員会および三菱電機の技術検証力に大きな疑問符が付いた格好だ。

三菱電機の品質不正に関する調査報告書(第2報)
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三菱電機の品質不正に関する調査報告書(第2報)
(写真:日経クロステック)

 調査委員会は2021年12月23日、三菱電機の不正問題に関して中間報告となる「調査報告書(第2報)」(以下、報告書)を公表した。その中で、日経クロステックが報じた業務用エアコンの騒音値偽装に関する記事に対し、三菱電機による検証の結果、「報道で指摘されているような問題は存在しない」(報告書)ことを確認したと結論づけた。

 同日の会見でその検証結果の真偽を問う筆者の質問に、調査委員会の木目田裕委員長は「(三菱電機の説明に)納得した」と回答。同じく、三菱電機の品質改革推進本部で品質管理を統括する品質担当執行役(CQO)の竹野祥瑞氏は「一点の曇りもなく正しい」と説明した。

 果たして、それは本当か。

存在しないはずの「原データを見た」

 当該の記事で報じたのは、三菱電機が「シティマルチ」ブランドで展開する天井埋め込み型室内機「VMM」シリーズの騒音値偽装。製品の静かさを強調するために、騒音の最大値を小さく偽った不正があることを理論式(騒音変化の式)を基に指摘した。この製品を同社は2000~14年にかけて販売。開発時期は「1998~99年ごろ」(関係者)とみられる。

 この記事に対し、三菱電機は報告書の中で、パソコン(PC)と連携した騒音自動測定システムを使っており、騒音値のデータ偽装はできないと主張した。報告書にはこうある。

 「騒音値を測定する測定機器はパソコンにつながっており、測定結果は機械的にパソコンに保存される」「パソコン内に保存されていた測定結果をプリントアウトしたものと試験研究報告書記載の騒音値を対査したが、それらはいずれも一致していた。したがって、試験研究報告書記載の騒音値は、測定機器が機械的に記録した騒音値がそのまま記載されており、カタログに記載されている騒音の上限値が、実測値よりも低く改変されているという事実は認められない」(共に報告書)

 確かに、業務用エアコンの開発設計拠点である冷熱システム製作所(和歌山市)には無響室があり、そこにPCと連携した騒音自動測定システムが設置されている。同社がこれを設置したのは「2006年。それより前に騒音自動測定システムはなかった」(関係者)。騒音自動測定システムがなかった時代に、三菱電機では騒音計とオシロスコープを使って騒音を測定していた。関係者によれば、このオシロスコープとPCもつながっていたため、データが機械(自動)的にパソコンに保存される状態にはあったようだ。

 ところが、関係者がVMMの騒音データを探したところ、開発から時間がたっていることもあって「見つからなかった」という声が上がっている。それだけではない。「データを偽装できないというのは事実に反する。データはExcel上でいくらでも加工可能だ」と関係者は言うのだ。さらには、「室内機の騒音測定に関する試験研究報告書など、見たことも聞いたこともない」(関係者)という声もある。

 木目田委員長は「原データを見て検証した。外部の学者の他、有識者の複数の人に調査方向や考え方を検証してもらい、合理的である」と判断したと語った。一方、竹野氏は「生データは改ざんできない形で取れるようになっている」と説明した。

 調査委員会と品質改革推進本部は一体、何のデータを見たのか。

調査委員会の木目田裕委員長(左)
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調査委員会の木目田裕委員長(左)
日経クロステックが報じた性能不正疑惑報道に対する三菱電機の説明に「納得した」と語った。(写真:日経クロステック)