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 物理法則に従わない工業製品はこの世に存在しない。だが、三菱電機の業務用エアコンは必ずしもそうではないとでも言いたいのだろうか。

 物理法則にのっとって室内機の騒音不正を報じた日経クロステックの記事に、三菱電機が反論。加えて、その反論内容を外部調査委員会(以下、調査委員会)も三菱電機の品質改革推進本部も、そのまま受け入れた。同社の漆間啓社長まで、自社の反論を「合理的な根拠を持つものといえる」と記載した調査報告書(第2報、以下報告書)を「客観的に書いてもらった」と言うのだ

2021年12月23日に調査委員会が公表した報告書
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2021年12月23日に調査委員会が公表した報告書
日経クロステックの記事に対し、「報道で指摘されているような問題は存在しないことが確認されている」と記載した。(写真:日経クロステック)

* 2021年12月23日に三菱電機が開催した品質不正問題の中間報告会見における筆者の質問に対する回答。

 どこが合理的なのか。結論を先に言えば、三菱電機の反論は、技術的にまともな反論になっていない。本気で言っているのであれば、テクノロジー企業の看板を下ろしてはいかがか。

ファンの騒音(風)だけで十分

 日経クロステックが報じたのは、三菱電機が「シティマルチ」ブランドで展開する天井埋め込み型室内機「VMM」シリーズの騒音値偽装。同シリーズのうち、冷房能力が11.2kW(4馬力)と14.0kW(5馬力)、16.0kW(6馬力)の3機種で、製品の静かさを強調するために、騒音性能の最大値を実際よりも小さくした不正があることを、理論式(騒音変化の式)を基に指摘した。

騒音変化の式とその計算値
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騒音変化の式とその計算値
風量の差が1.4倍ある場合は、騒音変化が7.7dB以上ないと物理的に説明できない。そのため、P140VMMは不正だと日経クロステックは指摘した。これに対し、三菱電機はモーター音とビビリ音を考慮すれば「3dBに留(とど)まることは不自然なことではない」(報告書)と反論した。(作成:日経クロステック)

 具体的には、6馬力製品「PEFY-P140VMM-E」(以下、P140VMM)を取り上げ、以下のように騒音変化を求めた。

騒音変化 = 10×log 10{風量(強)/風量(弱)}5
ここで、風量(弱)= 29.5 m 3/min、風量(強)= 42.0 m 3/minを代入すると、
騒音変化 = 50×log 10(42.0/29.5)
     = 7.7dB

 つまり、風量の差が1.4倍ある場合は、7.7dB以上の騒音変化がないと物理的な説明がつかないと、以前の記事では指摘した。

 これに対し、三菱電機の反論内容に「納得した」と語る調査委員会の木目田裕委員長は、同社を代弁する形でこう説明した。「(以前の記事が示したのは)風(ファンの騒音)だけを考慮した理論式だ。実際の騒音はモーターの電磁音(以下、モーター音)やビビリ音(共振を起こした状態の音)があり、風量を落とすとかえって他の雑音が大きくなる。従って、必ずしも理論式の通りにはならない」と。

 つまり、以前の記事はモーター音やビビリ音が考慮されていない。故に、本来なら騒音変化の式にのっとって「37.3~45dB(騒音変化=7.7)」だが、風量(弱)のときは、モーター音やビビリ音が大きくなり、37.3dBから4.7dB分増えて42dBになる。よって、「風量の差が1.4倍ある場合であっても、騒音変化が3dBに留(とど)まることは不自然なことではない」(報告書)、という主張だ。

 どうやら以前の記事は、モーター音とビビリ音を失念して騒音不正を指摘したと受け取られたようだ。これらが与える騒音への影響は軽微にすぎず、実質的に無視できることから省略したのである。読者に分かりやすく伝えたいという配慮もあった。

 それでは、モーター音とビビリ音を考慮した上で改めて解説しよう。