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 物理法則にのっとって室内機(「シティマルチ」ブランドで展開する天井埋め込み型室内機「VMM」シリーズ)の騒音不正を報じた日経クロステックの記事に三菱電機が反論した。風量の差が1.4倍ある場合、物理式から騒音変化は7.7dB以上必要という記事の指摘に対し、モーター音とビビリ音があるため「騒音変化が3dBに留(とど)まることは不自然なことではない」〔調査報告書(第2報、以下報告書)〕と三菱電機は主張した。

 だが、それはあり得ない話だ。

三菱電機の漆間社長(中央)と品質改革推進本部の竹野氏(左)、調査委員会の木目田委員長
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三菱電機の漆間社長(中央)と品質改革推進本部の竹野氏(左)、調査委員会の木目田委員長
品質不正問題の中間報告会見で三菱電機の反論について説明した。(写真:日経クロステック)

「社内品質基準を満たさない」

 ビビリ音とは、共振を起こした状態の音のことである。筐体(きょうたい)が激しく振動し、大きな音がする。だが、機械設計において共振を避けるというのは基本中の基本。機械がまともに機能しなくなるどころか、壊れてしまう危険性すらあるためだ。大学の機械工学科でも学ぶ基礎的な内容である。

 騒音試験でビビリ音が発生すれば、特定の周波数(固有振動数)における騒音成分が跳ね上がり、その整数倍の周波数における騒音成分も跳ね上がる。そのため、試験中にグラフ(横軸が周波数で縦軸が騒音のグラフ)を見れば一目で分かる。

 案の定、三菱電機の関係者は「ビビリ音が発生する製品は社内品質基準を満たさないため、製品化されることはない」と証言する。社内品質基準を満たさないビビリ音が発生すると偽ってまで騒音不正を否定するというのは、一体どういう了見か。

 本当は無理筋の反論だということを、三菱電機自身が分かっていないはずはない。当該の記事で言及しなかったモーター音とビビリ音を持ち出せば、技術に疎いメディアも外部調査委員会(以下、調査委員会)も簡単にだませるとでも思ったのだろう。同社の品質改革推進本部を率いる竹野祥瑞〔品質管理を統括する品質担当執行役(CQO)〕氏も、業務用エアコンの技術については専門外のため見抜けなかったとみられる。

 やはり、三菱電機の反論は「素人だましの隠蔽工作」と断じざるを得ない。同社の不正は社会問題化し、辞任した杉山武史前社長も漆間啓現社長も「膿(うみ)を出し切る」と宣言している。にもかかわらず、業務用エアコンを開発する冷熱システム製作所(和歌山市)は、調査委員会や品質改革推進本部を欺いてでも、性能不正を隠し通したいということだろう。

ダイキン製品の騒音の最大値は「44dB」

 さらに言えば、三菱電機の反論は的外れでもある。当該の記事で指摘したのは「騒音の最大値が45dBというのは小さ過ぎる」ということだ。ところが、三菱電機の反論には、45dBが正しいことを証明する技術的な説明は一切ない。にもかかわらず、45dBが正しいという前提で、騒音変化が3dBでも不思議はないと言い張っているのである。

 ここで改めて、騒音の最大値の45dBは不正であると主張しておこう。その証拠は、VMMシリーズの後継機種である「VMA」シリーズの騒音性能だ。VMAシリーズはコンパクトでありながら低騒音を実現した、空調業界で画期的な製品と評価されている。その騒音削減効果は、実に約10dBだ。

VMMとその後継機種であるVMAとを比較した騒音値
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VMMとその後継機種であるVMAとを比較した騒音値
VMAはファンを一新するなど優れた静音設計により、約10dBと大幅な騒音削減効果を実現したことで知られる。ところが、両製品を比べると、VMAの騒音の最小値はVMMから9dB下がっているものの、VMAの騒音の最大値はVMMからわずかに3dBしか低下していない。明らかに不自然だ。VMMの騒音の最大値が50dBを超えていると考えると、この矛盾は消える。(作成:日経クロステック)

 そのVMAシリーズの6馬力製品「PEFY-P140VMA-E」(以下、P140VMA)の騒音値は「33~42dB」。これに+10dBした「43~52dB」程度が前機種であるP140VMMの騒音値と考えるのが普通だ。ところが、三菱電機が主張する騒音値は先の通り「42~45dB」だ。両製品を比較すると、P140VMMの騒音の最小値として三菱電機が主張する42dBは、P140VMA の33dBから+9dBだからほぼ計算が合う。ところが、P140VMMの騒音の最大値として三菱電機が主張する45dBは、P140VMAの42dBから+3dBしか増えていない。

 優れた静音設計を施してP140VMAを開発し、両製品において騒音の最小値の差は9dBもある一方で、なぜ騒音の最大値の差は3dBしかないのか。「三菱電機が騒音の最大値を偽装したから」(関係者)と捉えるのが自然だろう。

 なぜ三菱電機は騒音の最大値として45dBにこだわったのか。2つの理由が推察できる。1つは、「冷暖房能力が1ランク低い小型機種並みに騒音値を抑えたと宣伝したかったから」(関係者)ではないか。そしてもう1つは、競合するダイキン工業の製品を意識したからではないか。VMMシリーズよりも若干厚みがあるものの、2001年にダイキン工業が販売していた競合製品の騒音の最大値は「44dB」だった。