「DX(デジタルトランスフォーメーション)が進むことで全ての産業がIT化している。アパレルなど、これまで特許とはあまり関係のなかった企業も無縁ではいられない」。特許に詳しい牧野和夫弁護士はこう指摘する。
2021年12月23日、ファーストリテイリング(以下ファストリ)がITスタートアップのアスタリスクならびに特許ビジネスを手掛けるNIPとの間で争っていたRFID(無線自動識別)を使ったセルフレジの特許を巡る訴訟について、全面的に和解が成立した。
問題となったセルフレジは、くぼみの中に商品や買い物かごを置くだけで商品に付いたRFIDタグを読み取る機能を備えており、「ユニクロ」や「ジーユー(GU)」に設置されている。アスタリスクは同セルフレジの特許を2017年5月に出願。2019年1月に登録された。併せて親特許を含め、関連技術を分割して特許を複数取得した。
ファストリ側は2019年5月に同特許の無効審判を請求。これに対しアスタリスクは同年9月に、ファストリ側に対する特許権侵害行為の差し止め仮処分を東京地方裁判所に申し立てるなど、両者の間で激しく争ってきた。
関連記事 スタートアップの8割が大企業の横暴に泣き寝入り、戦う武器は「特許と契約」にあり ファストリとアスタリスク、セルフレジ特許巡る訴訟で和解成立2020年8月、ファストリが提起した無効審判について、特許庁はファストリ側の無効請求を部分的に認めつつ、セルフレジに使う2種類の特殊素材など特許の一部は有効だと判断した。双方が不服として知的財産高等裁判所(知財高裁)で争ったが、2021年5月、知財高裁はアスタリスクの特許を有効と判断し、ファストリ側の主張を退けた。ファストリはこれを不服として同年6月に最高裁判所に上告。さらに同社は同年8~9月、親特許や分割特許について新たな事実を基に無効審判を請求していた。
アスタリスクはかねて株式上場を目標にしていた。ファストリとの訴訟が業績に影響を与えるリスクを懸念し、2020年11月に日本におけるセルフレジの特許をNIPに譲渡することを決定。その後、アスタリスクは2021年9月30日に東証マザーズに上場し、NIPをフォローする立場でファストリとの訴訟に参加していた。
互いの主張は「ボタンのかけ違い」から発生
裁判で激しく争う一方、両者は和解協議を進めていた。3社合同の発表文を要約すると、「ファストリは現在NIPが保有する特許が有効に存在することを尊重し、アスタリスクとNIPはアスタリスクの特許出願が公開される以前からファストリが独自にセルフレジを開発して使用していたと確認する」ことで和解合意に至った。一般に特許出願から1年半後に発明内容が公開される。アスタリスクが特許を出願してから1年半後の2018年11月よりも前に、ファストリは既にセルフレジを独自開発して使用していたという意味だ。