天保3年(1832年)創業、山形県酒田市に本社を置く老舗酒造会社の楯の川(たてのかわ)酒造がDX(デジタルトランスフォーメーション)を加速させている。2021年12月1日にはビズリーチが運営する人材管理クラウド「HRMOSタレントマネジメント」を導入し、人材活用のデジタル化を進めていると発表した。
楯の川酒造では社員の20%ほどがフルリモートで働く。同社でDXを推進する川口達也取締役もその1人だ。背景には顧客ニーズや事業環境の変化に対応するために同社が掲げる「多角化経営」がある。
日本酒の国内出荷量は下降傾向にあり、同社によると1970年は3500社ほどだった日本酒の製造免許場数が2015年には1300社ほどに減少した。この状況に対し、楯の川酒造は2021年1月現在で海外27カ国・地域への日本酒の輸出や海外のロックバンドとの商品コラボ、フルーツを使ったリキュールやウイスキーの製造など経営の多角化に取り組む。「多角化経営を加速させるにはより多様な人材が必要となる」(楯の川酒造経営企画室広報課広報の高梨杏奈氏)との思いから、場所にとらわれない働き方を用意することで採用を進めてきた。
柔軟な働き方を実現する一方で、課題があった。本社のある山形県をはじめ南は沖縄県の石垣島までさまざまな場所で働く社員たちにとって、お互いの情報や業務内容を把握しにくく、コミュニケーションや業務連携が難しい場面が発生していた。また、組織としても各社員がどのようなスキルや能力を持っているかを可視化できておらず、ジョブローテーションなどを進めるための情報が整理されていなかった。
そこで同社は人事DXに乗り出した。川口取締役が過去にHRMOSタレントマネジメントを導入した経験があったことも幸いし「思ったよりずっとスムーズに導入できた」(高梨氏)。導入には数カ月をかけたが、ほとんどは社員が自らの情報を登録・修正することに費やした時間だという。

酒造の現場において、社員は衛生管理者資格や工場で使うフォークリフト免許(フォークリフト運転技能講習修了証)などさまざまなスキルを持つ。 食品衛生管理者や防火管理者など社員が受ける講習も幅広い。高梨氏はHRMOSタレントマネジメントを「社員が持っている免許や受けた講習、業務経歴、現場で起きたヒヤリハットまでを一括で登録・管理できる」と評価する。自らもフルリモートで働く高梨氏としても、普段リアルでは会わない社員の顔を写真で見られることでコミュニケーションがより取りやすくなったと感じているという。
