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 「複数のAI(人工知能)モデルを組み合わせることで、検知対象や利用するデバイス、物体検知AIモデルの種類にはよるが、エッジ端末における物体検知をこれまでの約8倍に高速化できる技術を開発できた」。こう胸を張るのは、NECの渡邊義和バイオメトリクス研究所主任だ。

 NECが開発したのは「漸進的物体検知技術」。同技術を活用すると倉庫や交差点などの画像から人やクルマなどを高速に検知できる。例えば倉庫の画像から人を検知し、人がどのくらい同じ場所にとどまっているか分析することで、倉庫における人員配置の最適化を図れる。交差点の画像から走っているクルマを検知できれば、クルマの速度や交通量を分析し交通管制に生かせる。今後、開発強化や実証を経て、2022年度の製品化を目指している。

 一般にAIは、精度を高めれば処理にかかる時間が長くなる。そこで今回開発した漸進的物体検知技術では、「高速で処理できるが精度があまり高くないモデル」と「処理に時間はかかるが精度が高いモデル」を組み合わせた。

 もっとも、物体検知技術の潮流はこの真逆だという。渡邊主任の上司である竹中崇バイオメトリクス研究所主幹研究員は「多少毛色は違うものの、物体検知の技術が生まれた頃はまず画像の中から物体の候補を見つけ、その候補が一体何なのかを調べるという2段階のプロセスを踏んでいた時代があった。その後は処理速度を高めるために1つのモデルにこれら2つのプロセスを統合して処理する方向に進んできている」と話す。こうした歴史がある物体検知において、渡邊主任はなぜ複数のモデルを組み合わせたのか。

元はハードウエア寄りの研究に従事

 渡邊主任が開発した物体検知は2段階から成る。まず精度はあまり高くないものの高速に物体を検知できるモデルで画像の中から物体が映った部分を切り出し、その画像に対して精度の高いモデルで何が写っているかを判別する。画像の中から物体の候補を絞り込むことで背景による計算資源の浪費を解消しつつ、精度の高いモデルも併用してモデル全体としての精度を担保している。

開発した物体検知技術の概要
開発した物体検知技術の概要
(出所:NEC)
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 渡邊主任は物体検知のAIモデルの開発に当たり、「人間が物を見つけるときは粗く範囲を絞ってから詳細に探すプロセスを踏む。AIで物体検知をする際も、検知対象の物体以外の箇所に計算能力を割くのはもったいないと感じていた」と話す。これが複数のモデルを組み合わせる発想の源流になった。

 全社的にAI領域へ注力しているNECは、GPUなどの高性能なチップを使えない場面でもAIの恩恵を享受するためにハードウエアの知見をAI開発に役立てようとしている。そこでハードウエアに従事していたチームの研究テーマをシフトする試みを進めており、もともとハードウエア寄りの研究に携わっていた渡邊主任も竹中主幹研究員の下で画像認識AIの研究に従事するようになった。「物体検知の識者に相談するよりも、まずは自分で手を動かしてみた」(渡邊主任)。その結果、モデルの組み合わせによって良い成果が得られたという。