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 国内宅配最大手のヤマト運輸が、外部の技術や知見を取り入れる「オープンイノベーション」をてこに配送現場の改革を進めている。経験や勘に頼っていた荷物の積み込み作業を支援するスマートフォンアプリや、機械学習に基づいて荷量の増減を予測するシステムを、このほど実際の拠点や配達員に展開し始めた。人手不足でも高品質な配送網を維持するため、デジタル技術による業務の抜本的な省力化・効率化を急ぐ。

 同社は2022年4月から、車両への荷物の積み込み順などをスマホアプリで視覚的に指示してくれる新システムを全国展開する。これに先駆けて2021年11月から都内にある配送センターの一部で稼働させた。利用するのは、ヤマトが2020年6月に開始したEC(電子商取引)向け配送サービス「EAZY(イージー)」 の配達員「EAZY CREW(イージークルー)」だ。スイスのIT企業スキャンディットとともに新システムを開発した。

配達員がスマホアプリで伝票のバーコードをスキャンすると配達順序に合わせて車両への積み込み順や荷室の位置を指示してくれる
配達員がスマホアプリで伝票のバーコードをスキャンすると配達順序に合わせて車両への積み込み順や荷室の位置を指示してくれる
(出所:ヤマト運輸)
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 利用イメージはこうだ。イージークルーはまず自分のスマホに専用アプリをインストールしておく。荷物を車両に積み込む際は、アプリのカメラを使って伝票のバーコードをスキャン。すると、荷室のどこにどの順番で荷物を置くべきかといった情報を、配達順やルートに基づいて自動的に割り出しスマホの画面上に指示してくれる。

 従来はドライバーが伝票に印字された住所情報を確認し、配達ルートなどを考慮しながら経験や勘に基づいて荷物の積み込み作業を実施していた。ヤマト運輸の斉藤泰裕EC事業本部ゼネラルマネージャー兼社長室シニアマネージャーは「配達する荷物を荷室から探し出す作業は社内で『芋掘り』と呼ばれるほど手間がかかる」と話す。その手間を軽減して配達時間を短縮するには、あらかじめ車両の適切な場所に荷物を積み込んでから運ぶ必要がある。

 もっとも、ヤマトはイージークルーを外部の配送業者から募っており、宅配の経験が浅いために積み込み方を考えるのに時間がかかるケースが少なくなかった。こうした負担を軽減しながらイージーのサービス品質を高めるのが今回の新システムの主な狙いだ。

 システム開発に協力したスキャンディットは2009年の設立。ヤマトが米シリコンバレーを拠点としてスタートアップとの協業を模索するうちに、カメラの画像からバーコードや文字を高速で認識するスキャンディット独自の技術に目を付けた。2020年6月に実施した実証実験では専用端末に遜色ない速度でバーコードを正確に読み取れるなど成果が出て採用を決めた。斉藤ゼネラルマネージャーは「積み込み作業支援でノウハウの蓄積を進め、より上流工程の仕分け作業の効率化にもつなげたい」と展望を語る。