米Apple(アップル)が2021年10月に発売した新型ノートパソコン「MacBook Pro」は、同社が開発した新プロセッサー「M1 Pro」「M1 Max」を採用しており、改良された排熱システムなどを特徴とする。そこで今回、熱設計に焦点を当て「MacBook Pro 16インチモデル(M1 Max搭載)」を分析した。見えてきたのは、きょう体の表面からの放熱と、強制空冷を組み合わせ、ユーザーに熱さやファンノイズを感じさせない絶妙な構造だった。
「排気口に手を当てても風を感じない。耳を近づけて音を聞かないと冷却ファンが回っているのか気付けないぐらいだ」――。負荷の高いベンチマークソフトを実行中の「MacBook Pro」を目の前にして、熱設計に詳しい技術者たちは驚きの表情を浮かべた。
米Apple(アップル)によれば、2021年10月に発売した新型MacBook Proは、より低速な冷却ファンの回転で1.5倍の風量を送り出す排熱システムを搭載しているとする。ハイエンドなApple Siliconの新プロセッサー「M1 Pro」や「M1 Max」を搭載しながらも、消費電力効率に優れているため日常的な作業なら冷却ファンを使用しなくても排熱できるという。
実際、アイドリング状態では耳を近づけても冷却ファンの音は聞こえなかった。高負荷なベンチマークソフトを使用すると、耳を近づけると回転音が聞こえるため冷却ファンは回転しているものの、非常に静かな状態で排熱していた。この要因をサーマルデザインラボ代表取締役の国峯尚樹氏は「アルミきょう体の放熱能力をフルに生かした自然空冷と強制空冷を共存させた構造にあるのではないか」と話す。
自然空冷で大きな役割を果たすアルミきょう体
今回、内部の熱設計を調べるために分解したのは、M1 Maxを搭載した「MacBook Pro 16インチモデル」(以下、MacBook Pro)である。きょう体はアルミダイカスト製とみられ、プロセッサー部分の熱などをヒートパイプを通じてアルミきょう体へ逃がし、自然空冷を実施している。
もう一方の強制空冷には、2つの冷却ファンを用いる。これらはキーボードの下に当たる部分に内蔵されていて、きょう体を3等分した左右の部分あたりに配置されている。MacBook Proには、大きくて目立つ吸気口と排気口が、それぞれ4つずつ備えられている。吸気口は、本体左右側面の底部側にスリット状のものが2つ、ディスプレーのヒンジのある背面部中央に2つある。
排気口は背面部にのみ存在し、背面部にある吸気口の左右に、それぞれ2つずつ計4つある。背面部の吸気口と排気口は、ディスプレー側と底部側とで、半分ずつ配置する構造である。冷却ファンはこの排気を担う。
高負荷な処理中でもファン回転数は最小に近い
通常のアプリケーションやブラウザーの使用程度では冷却ファンが回転しなかった。そこで、ベンチマークソフト「Cinebench R23」を用いて高負荷処理を実行させる。電源の設定でエネルギーモードを「高出力」にし、電源アダプターを接続して試した。
ファンの回転数などをモニタリングできるフリーソフトを用いると、2つの冷却ファンが表示され、それぞれ最小回転数は毎分1499回転、最大回転数は毎分5348回転と毎分5776回転と表示された。ベンチマークソフトを実行中に冷却ファンの回転数を調べると、負荷が高い処理を実行中にもかかわらず毎分約1600回転で、最小回転数と大きくは変わらなかった。排気口からの排気を風速計で測定すると、風速は毎秒0.6~0.8mほどだった。
フリーソフトの測定値が誤っているのかと考え、回転数を手動で任意の値に設定できる機能で最大回転数に設定してみると、途端に冷却ファンの音が大きくなった。同様に風速計で測ると、一時的に毎秒6.0m以上の風が排気口から出ていた。