2022年はデジタル人材の育成・再教育に追い風が吹く。岸田文雄首相の看板政策である「人への投資」を実践するため、3年で4000億円規模の政策パッケージが動きだすからだ。
特にデジタル分野は重点配分する先進分野の1つとして、助成する教育・訓練プログラムが拡充され、助成額も一部で前年度から増額する。例えばハイスキルの人材育成に向けた助成制度が、プログラマーを目指すような基礎的な人材育成でも利用できるようになる。
さらに岸田政権は制度を使いやすくするため、制度への要望や助成対象などについて2022年1月26日まで官邸のWebサイトなどで民間から意見を募集している。厚生労働省が運用する現行の支援制度では拾いきれていない民間のニーズに官邸主導で耳を傾ける。非エンジニアに裾野を広げるなど、幅広いスキルの人が教育機会を利用できるように広がる可能性がある。
若手・経験浅い人材の訓練にも助成
2022年度は2021年度補正予算分も含めて、総額4000億円の半分にあたる総額2000億円強を投じる構えだ。デジタル分野では、企業向けの助成制度だけでなく自己負担による個人のスキルアップへの補助や求職者の職業訓練も強化する。いずれも厚生労働省の現行制度を拡充した。
助成制度 | 制度の利用対象者 | デジタル人材育成に関する内容 | 最大助成額 |
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人材開発支援助成金 | 企業 | 高助成率の特定訓練コースの対象にITSSレベル2の訓練を追加。さらに民間要望を踏まえデジタル人材育成訓練の新たなメニューも高率助成の対象に追加する | ・中小企業で1人時給760円・最大91万2000円+訓練経費最大50万円(助成率45%) ・中小企業以外では同380円・45万6000円+最大30万円(助成率30%) |
キャリアアップ助成金 | 企業 | ITSSレベル2~4のIT技術を取得する訓練の終了後に正社員化した場合は助成金を増額 | ・有期から正規雇用で現在の57万円に9万5000円加算 ・無期非正規から正規雇用で現在の28万5000円に4万7500円加算 |
教育訓練給付制度 | 個人 | 民間要望を踏まえデジタル関連講座を拡充 | 年間最大40万円で変わらず(受講費用の50%) |
公的職業訓練(ハロートレーニング) | 求職者 | 求職者が無料で受講できる公的職業訓練でITSSレベル1の講座を充実させるため、通常の訓練委託費に1万円を上乗せ | 訓練実施機関への委託費に1万円上乗せ、さらにIT訓練コース未設の地域は、コースを新設したら1万円上乗せ |
特定求職者雇用開発助成金 | 企業 | デジタル分野の企業を高額助成の対象にする | 調整中 |
このうち最大の予算を確保したのが、企業による就業時間内での従業員教育を助成する「人材開発支援助成金」である。雇用期間が限られる有期雇用の社員を教育してから正社員に登用するケースでは、関連制度も活用すると中小企業ならば1人当たり最大207万7000円、大企業でも同127万8500円の助成が受けられる。国が負担するのはあくまで教育費と訓練時間の給与、正社員登用に伴うコスト増のそれぞれ一部だが、教育や正社員化に伴う企業負担が軽くなる。
今回の制度拡充のポイントは、助成金の増額よりもむしろデジタル分野で助成の対象を広げた点にある。新たにITスキル標準(ITSS)レベル2を目指す教育を、2021年12月21日以降の申請分から助成対象に加えたのだ。
経済産業省が定めるITSSのレベル2は、上位スキル人材の指導のもとで要求された作業や課題解決ができるスキルとされている。具体的には、資格試験では基本情報技術者への合格を目指し、実務ではシステム開発やネットワーク構築などに従事できる基礎的なレベルに相当する。非正規と正社員ともに、若手育成に近い教育プログラムも助成される点が大きな変化だ。
これまでの助成はITSSのレベル3~4を目指す教育が対象だった。つまり一定の専門スキルを持つチームリーダー級以上を目指す人材教育にしか使えなかった。
岸田政権は民間の要望を踏まえて、2022年度中に対象の教育プログラムの拡充も準備している。先行したITSSレベル2などへの助成拡充に充てる予算は2021年補正予算で216億円。これに対し、別に設けた「民間要望枠」では2022年度分で504億円を準備している。中身はこれからだが、非エンジニア向けや既存制度からもれた新技術の領域など、多方面に助成対象が広がる可能性がある。