三菱電機で「リコール隠し」と疑われる事案が発覚した。その名も「空飛ぶファンガード」(同社の関係者)である。
2021年12月20日、三菱電機は非常用発電設備のリコールを発表した。欠陥を認識後も製造・販売を継続し、発電不良が発生した製品だけに処置を施す個別対応を実施。安全性よりもコストを優先した、事実上のリコール隠しだ。同社の漆間啓社長も「間違っていたと思う」と認めた*1。同種の事案について、漆間社長は「他にはない」と明言。ところが、他にもあったというわけだ。
空飛ぶファンガードとは、作家の池井戸潤氏の小説の題名をもじった呼び方である。走行中に大型トレーラーから外れたタイヤが母子3人を直撃し、20代の母親が死亡する痛ましい事故が2002年に発生した。ところが、事故の原因となった設計不良(ハブの強度不足)を三菱自動車が隠蔽(いんぺい)。このリコール隠し事件を題材にした池井戸氏のベストセラー小説が『空飛ぶタイヤ』である。
ファンガードは、業務用エアコンや冷熱機器の室外機を構成する部品。室外機の最上部に取り付ける、プロペラファン(以下、ファン)を覆う樹脂(ポリプロピレン)製カバーのことである。ファンの省エネ性を高め、騒音を抑える機能も併せ持つ。ファンガード全体は“シルクハット”のような形状。ファンを覆う上部は円筒状で、室外機本体に取り付ける下部(底部)は水平方向へ長方形に広がっている。これが室外機から外れ、空を舞いながら落ちる可能性があることから「空飛ぶファンガード」という名称になったようだ。
三菱電機は危険を認識
ファンガードの質量は1kg未満とそれほど重くはないものの、高さ320×幅920×奥行き760mm程度と大型部品(大物成形品)であり、先述の通り底部が広がっていることから風に乗り得る形状だ。加えて、ファンガードには四つ角がある上に、厚さが2mm程度と比較的薄い。
室外機は高層ビルの屋上など高い場所にも設置するため、大きな位置エネルギーを持つ場合が少なくない。従って、高所で室外機から外れたファンガードが、強風に乗って回転しながらぶつかれば、人体に危害を加える可能性は十分にある。そしてなにより、三菱電機はこうした危険性を認識していたのだ。実質的なリコール隠しと見なさざるを得ない。
このファンガードに対し、三菱電機は2017年10月10日に「リコール」(同社の技術者)を実施すると発表した*2。従って、処置済みのファンガードが空を舞うことはない。「人を傷付けたという報告は聞いていない」(関係者)という通りなら、不幸中の幸いだったといえるだろう。
だが、問題は、危険性を認識してから7年もの間、三菱電機がこのファンガードを放置していたという事実である。その間、同社は顧客の安全性をないがしろにしていたと言われても反論できないのではないか。
空飛ぶファンガードの“物語”は、1件のクレームから始まった。