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 電気自動車(EV)の「ゲームチェンジャー」と期待された全固体電池の早期量産を懸念する見方が強まる中、自動車メーカーが既存の液系リチウムイオン電池の延命に力を注ぎ始めた。注目を集めるのが「ドライ電極」である。米Tesla(テスラ)に続き、ドイツVolkswagen(フォルクスワーゲン、VW)が開発に乗り出す。製造工程の抜本的な変更に踏み込み、電池事業の課題である莫大な設備投資と製造コストを削減できる可能性がある。

VolkswagenがドイツZwickau(ツウィッカウ)工場で生産するEV「ID.4」(出所:Volkswagen)
VolkswagenがドイツZwickau(ツウィッカウ)工場で生産するEV「ID.4」(出所:Volkswagen)
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 2022年1月18日(米国時間)、VWが米新興電池24M Technologies(24Mテクノロジーズ、10年設立)に25%出資したことを24Mが発表した。VWは日経クロステックに対して出資額が「数億ドル(数百億円)」と回答し、筆頭株主になったとみられる。VWは「ドライ電極」と呼ぶ24Mの技術を利用し、液系リチウムイオン電池の製造設備で大きな面積を占める乾燥炉をなくす狙いだ。

 設備面積を40%削減し、さらに乾燥炉で使っていた大量のエネルギーが不要になると見込む。「投資を大幅に節約し、(電池製造の大きな課題となっている)製造時の二酸化炭素(CO2)排出量を削減できる」(VW)と期待をかける。20年代後半の大規模な量産を予定し、欧州の35年CO2排出量ゼロ規制を乗り越える切り札にする考えだ。

 液系リチウムイオン電池の製造工程は一般に、金属化合物の正極材や黒鉛を主成分とする負極材に液状のバインダー(接着剤)などを混ぜてスラリーといわれる流動性のある状態にする。次にスラリーを金属箔に塗工し、乾燥するとシート状の電極になる。その後は形状を整えて積層し、電解液を注入して検査工程に流す。このうち乾燥炉は長さが50~100mに達する巨大な装置で、電池事業の投資額を莫大にし、CO2排出量が多くなる主因となっていた。

 24Mの「ドライ電極」技術を採用すると、バインダーの代わりに電解液を正極材や負極材と混ぜることでスラリーとし、金属箔に塗工して電極にする。バインダーの液体成分を蒸発させる必要がなく、乾燥工程をなくせる。24MのCEO(最高経営責任者)である太田直樹氏は「電池製造工程を3分の1に短縮し、設備投資を6割以上削減できる」と主張する。24Mは流動性のあるスラリーを用いるため「半固体電池」と呼ぶ。

乾燥工程をなくす利点は大きい
乾燥工程をなくす利点は大きい
24M Technologiesの「ドライ電極」技術により、巨大な設備が必要な乾燥工程を省ける。24Mの資料を基に日経クロステックが作成した
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テスラの「ドライ電極」との違いは?

 接着剤の働きをするバインダーを使わず、電解液と混ぜた活物質を金属箔に塗れる理由について24Mの太田氏は「(分子間力の一種である)ファンデルワールス力を利用する」と解説する。「うどん粉に水を混ぜてこねるのに似ている」とのたとえ話も披露し、難しい技術ではないと話す。

 ただし、電解液については一般的なものと説明し、リチウム(Li)塩を溶解させた有機溶媒とみられるが、独自の添加材を加えているようだ。また活物質の粉末と電解液の混合や塗工などにノウハウがあり、100件以上の特許を出願していると明かす。24Mは「電池を自ら製造することは考えていない」(太田氏)と話し、ライセンス料を得る事業モデルとなる。

24Mの電極
24Mの電極
(出所:24M Technologies)
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 乾燥炉を省ける「ドライ電極」に注目が集まるのは、20年にテスラが開催した「Battery Day」で次世代電池の見通しを発表したときに、同技術を採用すると明かしたことが大きい。ただテスラと24Mの「ドライ電極」は全く異なる。