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 データ記憶装置の総出荷台数と総出荷金額で、2020年に初めてNAND型フラッシュメモリーを使うSSD(ソリッド・ステート・ドライブ)に追い抜かれ、いよいよ風前の灯(ともしび)という見方もあったHDD(ハード・ディスク・ドライブ)。しかし、今後は新技術の力を得て、復活を遂げる可能性がある。

2021年におけるHDDとSSD市場の比較
2021年におけるHDDとSSD市場の比較
総出荷台数はHDDの2億5900万台に対してSSDは3億8300万台。総出荷金額はHDDの236.8億米ドルに対してSSDは312.6億米ドル。1ドライブ当たりの容量にはまだ7.5倍ほどの差がある。(図:テクノ・システム・リサーチの調査データを基に一部改訂)
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 東芝と東芝デバイス&ストレージは2021年12月27日、世界で初めて「共鳴型マイクロ波アシスト磁気記録(MAS-MAMR)」によるHDDの大幅な記録能力の改善を実証することに成功したと発表した。現時点では、「これまで理論として提唱されてきた原理を実証できた段階」(東芝 研究開発センター先端デバイス研究所ストレージデバイス技術ラボラトリー室長の山田健一郎氏)だが、これによって3.5インチのHDD1台で30TB超という大容量化へ向けての見通しが立ったとしている。

 この意義は大きい。HDD復活の絶対条件が、大容量化とビット単価の低下を継続することにあるからだ。ここ5年以上、最も容量が大きいタイプの3.5インチHDD1台の最大容量は毎年2TBのペースで増えてきた。そのための主な手段は、同じ厚さのHDDに内蔵する磁気ディスクの枚数を増やすことだった。

毎年2TB増のペースを維持か
毎年2TB増のペースを維持か
ニアラインストレージ用HDDの容量は、1年で2TBのペースで増えてきた。ディスク枚数の増加というこれまでの手段に限界が見えるなか、アシスト磁気記録は容量向上のペースを維持、もしくは加速するために期待が大きい。(図:テクノ・システム・リサーチの調査データや日経クロステックの取材を基に作成)
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 例えば、16年に発売された10TBの製品には7枚のディスクが内蔵されていたが、19年には9枚で16TB、21年末には10枚で20TBの製品も登場している*1。これを可能にしたのが、HDDの内部を密閉してHe(ヘリウム)ガスを封入する手法だ。Heは空気と比べて密度が低く、ディスクの回転に起因する部品の振動を減らせるため、ディスク自体や磁気ヘッドを支えるアームを薄くできる。

*1 Seagate Technologyは21年末、Heガスを充填し、通常のアルミ合金ではなくガラス基板製ディスクを10枚内蔵する通常記録方式の20TB品を発売した。ただし、現状、ガラス基板を採用しているのは同社のみである。

 ただし、この手法は限界に近づいたといわれており、これ以上多くは望めない。そうしたなか、容量をさらに高める次世代技術としてエネルギーアシスト磁気記録の実用化が数年以上前から期待されていた。

 実は東芝は、21年3月に「磁束制御型マイクロ波アシスト磁気記録(FC-MAMR)」という、MAMR技術を開発する過程で生み出した独自のアシスト技術を採用することで、3.5インチで18TBの容量を持つHDD「MG09シリーズ」のサンプル出荷を開始し、現在は量産中である。しかし、「FC-MAMRによる容量向上にも限界がある。通常記録方式(CMR)で20TB、瓦磁気記録(SMR)という技術を使えば24TB程度までは行けるかもしれないが、その先は難しそうだ」(東芝デバイス&ストレージ ストレージプロダクツ事業部ストレージプロダクツ事業企画統括部ストレージプロダクツ業務企画担当エキスパートの五味浩一郎氏)という。

瓦磁気記録:磁気ヘッドを少しずつずらしながら、データを記録するトラックを重ね書きすることで、実効的なトラック幅を減らして記録密度を高める手法。
FC-MAMRの採用で18TBの容量を実現
FC-MAMRの採用で18TBの容量を実現
東芝デバイス&ストレージが21年3月にサンプル出荷を開始した「MG09シリーズ」。現在は量産中。CMR(従来型磁気記録)方式で当時、業界最大容量の18TBを実現した。ディスクを9枚内蔵する。(写真:東芝)
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 つまり、それより先はMAS-MAMRの出番となる。そこに実用化の可能性が見えたことは、HDDが生き残るために不可欠な高容量化に対する新たな道筋がついたことを意味する。「今回の成果によってHDDの容量向上のスピードが再び成長することを期待したい」(山田氏)