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村田製作所が今後本格化するミリ波対応の5Gスマートフォンに対して、画期的なアンテナモジュールを開発し、スマートフォンメーカーに販売攻勢をかけている。2つのアンテナアレーを一体化したアンテナモジュールで、例えば側面方向と背面方向の2方向と電波をやり取りできる。これまでアンテナアレーごとに搭載していたRF(無線周波数)ICが1個で済むため、搭載コストが安く、省スペースである。既に、スマートフォンメーカーに採用されているもようで、今後も採用数が増えそうだ。同社にこのミリ波アンテナモジュールについて聞いた。

 2021年10月、“L字形”という立体形状を特徴とした5G(第5世代移動通信システム)ミリ波用アンテナモジュールが登場した。村田製作所が開発した「LBKAシリーズ」である。1つのモジュールで2方向への電波放射を可能とし、省スペース化や低コスト化を強みとする。既に量産体制に入っており、21年後半に発売されたスマートフォン向けなどに出荷を開始している。

 LBKAシリーズは、同社の樹脂多層基板「メトロサーク(MetroCirc)」を用いることでアンテナモジュールをL字形にする曲げを保持できるようにした。既存のミリ波用アンテナモジュールは細長い長方形で、1方向をカバーする平面形状のアンテナなのが一般的だが、本製品はこの平面アンテナを2個くっつけたような立体形状で、横から見るとL字形になっている。

†メトロサーク=液晶ポリマー(LCP)シートを積層した樹脂多層基板。高周波特性に優れ、吸水性が極めて低く、安定した性能の基板を実現できることに加え、接着層が不要なため薄型で複雑な曲げ加工にも対応できる特徴がある。
L字形が特徴の、村田製作所の5Gミリ波用アンテナモジュール「LBKAシリーズ」の外観
L字形が特徴の、村田製作所の5Gミリ波用アンテナモジュール「LBKAシリーズ」の外観
コネクターの隣にある銀色の直方体の部分が樹脂モールドで、RFICなどを内蔵している。(出所:村田製作所)
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 LBKAシリーズは、2方向分の通信範囲を1つのRF(無線周波数)ICでカバーできるのが特徴である。具体的には、4つのアンテナエレメントをアレー状に搭載した長方形の基板を2枚、計8個のアンテナエレメントをフレキシブルな薄い基板部分でつなげて一体化したモジュールである。

 1つのRFICが2方向分の制御が可能なキャパシティーを備えていて、4つずつのアンテナエレメントを排他的に制御しており、アンテナの個数を減らしても安定した通信を可能にした。

 L字形にしたメリットは、アンテナモジュールの低コスト化と搭載機器の小型化である。5G対応スマートフォンでは、複数のミリ波用のアンテナモジュールが搭載される場合が多い。なぜなら、ミリ波は直進性があり通信可能な角度範囲が狭いため、側面や背面などの方向をそれぞれ1つのアンテナモジュールがカバーする必要があるからだ。L字形にすることで、このアンテナモジュールの個数を減らすことができる。

 一般的には、スマートフォンのきょう体ケースの上面、背面、左右どちらかの側面の3方向をカバーするのに、計3つのミリ波用アンテナモジュールを搭載するケースが多い。LBKAシリーズを採用すると、例えば上面と背面の2個のアンテナモジュールを本製品1個に置き換えられるようになる。「平面のミリ波用アンテナモジュールを2個使うよりも、本製品のほうが安く導入できる。低コスト化によって、ミドルレンジやローレンジのスマートフォン製品でも5Gミリ波に対応できるようにしたい」と、同社通信モジュール事業部ミリ波事業推進部開発2課マネージャーの森本秀行氏は語る。

L字形にすることで既存の平面のミリ波アンテナモジュールに比べてカバー範囲を2倍に
L字形にすることで既存の平面のミリ波アンテナモジュールに比べてカバー範囲を2倍に
(出所:村田製作所の資料)
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1つで2方向をカバーでき、携帯端末での搭載個数を減らして低コスト化につなげられる
1つで2方向をカバーでき、携帯端末での搭載個数を減らして低コスト化につなげられる
(出所:村田製作所の資料)
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 村田製作所がLBKAシリーズを開発したきっかけは、同社が保有するメトロサーク技術の活用である。「5Gスマートフォンのミリ波対応では、複数のアンテナモジュールを使用しなければいけないため、設計面とコスト面で負担が大きいという話を顧客から聞いていた。そこで、曲げられる多層基板であるメトロサークを使って、L字形で2方向に電波を放射できるアンテナを作れないかと発案した」(森本氏)

 メトロサークなら基板の曲げ部分を小さく押さえられるため、アンテナエレメントの面積を最大限まで確保できるようになる。加えて、メトロサークの材料物性が、ミリ波帯で求められる基板の材料物性にもマッチした。誘電率や誘電正接の低さが、アンテナの広帯域化や低損失化につながるという。

 LBKAシリーズは、端末内部の省スペース化にも貢献する。2つのアンテナモジュールを使用する場合、アンテナモジュール上のRFICや電源管理IC、コネクターなどは2個分必要になるが、本製品なら1個分で済む。そのため、L字形の片側の基板部分はより薄く小さくできる。また、L字形にすることで発熱源となるRFIC部分を端末の基板や放熱素材などに密着させられるようになり、熱設計もしやすくなるという。

 今後は、より小型なアンテナモジュールへと改良を進める。「IC未搭載面をもっと低背化できれば、端末の厚みがより薄い製品にも搭載できるようになる」(森本氏)

 さらに、曲げる角度のバリエーションも増やしていく。現在は90度に曲げた状態での使用を想定しているが、これを120度や150度など、鈍角方向へ広げた用途での問い合わせもあるという。「曲げプロセスの改善を進めて、顧客が求める端末設計に合わせられるフレキシブル性を実現していきたい」(同社通信モジュール事業部ミリ波事業推進部開発2課マネージャーの菅原直志氏)