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SMBC日興証券の前田氏
SMBC日興証券の前田氏
(出所:SMBC日興証券)
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 「ゲームは今や、エンターテインメントコンテンツの『王様』」――。そう語るのは、ゲームを中心としたエンターテインメント業界に詳しいアナリストの前田栄二氏(SMBC日興証券 株式調査部 エンタテインメント・メディアチーム シニアアナリスト)である。新型コロナウイルス禍を機にゲーム市場が一気に成長。21年からゲーム企業の大型買収が相次いだ。22年1月には、米Microsoft(マイクロソフト)が米Activision Blizzard(アクティビジョン・ブリザード)を687億米ドル(1米ドル115円換算で約7兆9000億円)で買収すると発表し、ゲーム業界を驚かせた。その約2週間後には、競合の米Sony Interactive Entertainment(SIE、ソニー・インタラクティブエンタテインメント)が総額36億米ドルで米Bungie(バンジー)を買収すると発表し、対抗する姿勢を見せた。半導体やセンサー、VR(仮想現実)、クラウドなどをフル活用するゲームは、先端技術の塊であり、けん引役である。ゲーム人口は現在30億人ほどとされ、30年には約45億人に達するとみられており、その傾向はますます強くなる。そんなゲーム業界で今、何が起きているのか。マイクロソフトやSIEによる巨額買収の背景を中心に、現在のゲーム業界について前田氏に語ってもらった。(構成=根津 禎)

 マイクロソフトのアクティビジョン・ブリザードの買収にはやや驚いた。マイクロソフトがどこかのゲーム関連企業を買収すると噂になっていた。だが、アクティビジョン・ブリザードというのは少し予想外だった。SIEによるバンジーの買収はタイミングとしては驚いたものの、バンジー開発のゲームをSIEがパブリッシングしており、以前から関係は深かったので、買収自体に驚きはない。お金があれば簡単に買収できるというものではなく、「縁」も必要だ。そういった面で、マイクロソフトもSIEも縁に恵まれたと思う。アクティビジョン・ブリザードについていえば、21年に社内のセクハラ問題で経営層に対する従業員の不信感が募り、社内で混乱が発生していたことも、買収を後押ししたのではないか。

 こうした巨額買収がゲーム業界で起きた理由は大きく2つある。1つは、独自のコンテンツIP(知的財産)確保のためだ。マイクロソフトやSIEといったゲームプラットフォーマーは、自社プラットフォームしかプレーできない「エクスクルーシブタイトル(独占タイトル)」を充実させることで差異化を図ってきた。いろいろと手段があるが、王道は「ファーストパーティー」と呼ばれる自社製のゲームを増やすことだ。2000年ごろまではゲーム機(コンソール機)の時代だったものの、それ以降、パソコン(PC)やモバイル(スマートフォンやタブレット端末)にも広がったことで、ゲーム自体の価値が向上した。その結果、ゲームはエンターテインメントコンテンツの王様のような立場になった。10年前では考えられなかった。

 言い換えると、PCやモバイルでもゲーム機並みのゲームをプレーできるので、差が縮まってきた。ゲーム会社も高騰する開発費を回収するために、ゲーム機だけでなく、PCやモバイルにも人気シリーズのゲームをリリースする。そうなるとますますプラットフォーム間の差が縮まる。だからこそ、ファーストパーティー製のゲームの重要性が増している。

 もっとも、独占タイトルは、なにもファーストパーティー製に限ったことではない。プラットフォーマーとゲーム会社が共同で開発して、そのプラットフォームに出したり、著名なゲームクリエーターが独立して立ち上げたゲームスタジオに出資して独占タイトルを出したりする方法もある。

 マイクロソフトにしろ、SIEにしろ、人気ゲームを抱える大手スタジオを買収したとはいえ、人気作を完全に囲い込むことはしないだろう。ゲームタイトルに応じて出し方を変えると思う。買収したスタジオの過去の人気作に関しては、SIEとマイクロソフトはそれぞれ自社のプラットフォームで囲い込み、サブスクリプション(定額課金)型のゲーム配信サービスの目玉として位置付けるのではないか。特に、マイクロソフトが買収したアクティビジョン・ブリザードは過去に人気作が豊富にあり、IPの価値も大きい。

 既にさまざまなプラットフォームで多くのファンがプレーしている最新作のゲームに関しては、独占タイトルにせず、現状を維持するだろう。ゲームファンからそっぽを向かれる恐れがあり、ゲーム事業にとって大きなリスクになる。実際、SIEによる買収発表後、バンジーはこれまで通り、独立したスタジオとして運営を続け、これまでの人気作をこれまで通りマルチプラットフォームに提供していくと明言した。

 マイクロソフトの場合、これまで買収したゲームスタジオのタイトルを自社プラットフォームに囲い込む場合が多い。ただし、「Minecraft(マインクラフト)」は、14年にマイクロソフトが25億米ドルで買収したスウェーデンMojang(モヤン)のゲームだが、買収後から現在もマルチプラットフォームに展開しており、囲い込みをしていない。もっとも、オンラインでプレーするには基本的にマイクロソフトアカウントが必要で、IDとして囲い込んでいる。

 買収後に新たに開発する大型タイトルに関しては、柔軟な配信策を採ると思う。それぞれのプラットフォームだけに提供する独占タイトルにしたり、あるいは時間差を設けて他社プラットフォームに展開したりということがあり得る。大型タイトルの開発には一般に5年前後かかる。そのころに、両社の戦略がはっきりするだろう。

 コンソール機の時代であれば、ゲームスタジオを買収した後は、そのスタジオが手掛けるゲームを囲い込んだ。だが今は、PCやモバイルでそれぞれゲーム配信プラットフォームがある。そのため、配信先や配信の方法など、タイトルごとに応じて考えていくだろう。