不妊治療を専門とする浅田レディースクリニック(名古屋市)は日本IBMと共同で、人工知能(AI)システム「AACS(アークス)」を開発した。熟練医師の手腕を学んだAIが、患者の状態に合わせたホルモン注射の配合や採卵タイミングを提示する。2022年2月3日から3施設で若手医師の教育に活用しており、均質な治療の提供に役立てる。
AACSは不妊治療の要素の1つである「調節卵巣刺激」に関連するAIシステムだ。調節卵巣刺激とはホルモン剤などを用いて複数の卵子を受精に適した状態まで成熟させる工程のことで、体外受精などの前のステップに位置づけられる。浅田レディースクリニックの浅田義正理事長は「不妊治療の成功率を高めるためには、授精に用いる成熟した卵子をどれだけ採取できるかが重要だ」と指摘する。
調節卵巣刺激は一般的に、卵子を採取する直前の2~3週間にわたって実施され、患者はこの間に5~8回程度医療機関を受診する。採血や超音波検査によって各種ホルモン濃度や卵子の大きさを調べ、状態に応じて新たにホルモン注射などを行う。ただし、その日の検査結果だけでなく、年齢や卵巣予備能(卵巣に残っている卵子の数)、薬への反応などの様々な要素を複合的に考慮する必要があり、「これまでは経験に基づいて最適な処方を考えてきた」(浅田氏)という。
このノウハウを学ばせてシステム化したのがAACSだ。AACSに血液検査で分かる各種のホルモン値、超音波検査で分かる卵子サイズ、前回の通院時の処方内容を入力すると、今回処方すべきホルモン注射の量や配合を提案する。また採卵が近づくと適切なタイミングを提示する機能もある。若手医師はAACSの提案を参考にしながら実際の対応を決めることができる。