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 エアバッグ大手の豊田合成が、歩行者頭部保護エアバッグを実用化した。SUBARU(スバル)が2021年に発売した新型SUV(多目的スポーツ車)「レガシィアウトバック」(図1)で初採用。導入を後押しするのは、自動車メーカーが掲げる「交通死亡事故ゼロ」の目標や世界各地域の自動車アセスメントなど。歩行中の死者数が多い日本を中心に、今後大きく広がる可能性がある。

図1 歩行者保護エアバッグの搭載イメージ
図1 歩行者保護エアバッグの搭載イメージ
バンパー内部のセンサーが歩行者を検知すると、エンジンルームから展開する。車両はスバルのSUV「レガシィアウトバック」である。(写真:スバル)
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 自動車メーカーが相次いで交通事故削減に関する目標を提示している。スウェーデンVolvo (ボルボ)は同社の新車による交通事故死者や重傷者をゼロにするほか、スバルは30年にスバル車が関与する死亡事故をゼロにする。こうした中、最後の切り札となり得るのが歩行者保護エアバッグなど歩行者保護装置だ。

 豊田合成が開発したのは、エアバッグとしては珍しい、車外に開くものだ。搭載車両が歩行者と衝突するとエンジンルームから車外に展開する(図2)。フロントウインドー下部やフロントピラーといった硬い部位を覆って、歩行者の頭部を衝撃から守る。

図2 豊田合成の歩行者保護エアバッグ
図2 豊田合成の歩行者保護エアバッグ
容量は130Lで、重量は約7.5kgである。衝突位置のバラつきに対応するため、大型化している。衝突時間もバラつくため、一般的なエアバッグに比べて3倍ほど長い時間、膨らんだ状態を維持する必要があるという。(撮影:日経Automotive)
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 世界では、ボルボが13年に初めて歩行者保護エアバッグを実用化した。供給していたのはスウェーデンAutoliv(オートリブ)である。これに対して豊田合成は、エアバッグの内圧を保持する独自技術などによって、歩行者保護の性能を向上させた。

 新開発の歩行者保護エアバッグは、フロントピラーを覆う部分に「逆止弁(ぎゃくしべん)構造」と呼ぶ技術を採用(図3)。フロントピラー部で頭部を受け止めると、エアバッグが押しつぶされることで内部の弁が閉じる。これにより、エアバッグのほかの部分に空気が流れなくなるため、内圧を保持できる。

図3 豊田合成の歩行者保護エアバッグが採用する逆止弁構造
図3 豊田合成の歩行者保護エアバッグが採用する逆止弁構造
フロントピラー部に逆止弁構造を採用している。展開時は弁が開いており、空気が流れる。頭部を受け止めると、弁が閉じる。他の部位に空気が流れなくなるため、内圧を保持できる。豊田合成の資料を基に日経Automotiveが作成。
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保護範囲でポップアップフードに優位

 スバル以外の国内自動車メーカーは、歩行者との衝突時に頭部への衝撃を軽減する機能として、「ポップアップフード」を使う(図4)。歩行者との衝突を検知すると、火薬の爆発によってフロントフードを持ち上げるシステムだ。フード内部にあるエンジンの硬い筐体(きょうたい)と頭部の間に空間を設けて、衝撃を軽減する。主にフードの位置が低く、エンジンとの空間が小さい車両で採用される。

図4 トヨタ自動車の「レクサスLC」が採用する4点式のポップアップフード
図4 トヨタ自動車の「レクサスLC」が採用する4点式のポップアップフード
ポップアップフード用のアクチュエーターは豊田合成が供給する。トヨタのほか、ホンダや日産自動車、マツダなどもフード位置が低い車両を中心にポップアップフードを採用している。(画像:トヨタ)
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 歩行者保護エアバッグは、安全性の面ではポップアップフードに対して優位だ。展開時にフロントピラーといった硬い部位が覆われるためである。交通事故総合分析センターによると、国内の歩行者の死亡事故では、これらの部位と頭部がぶつかり致命傷を負うケースが大半を占めている。

 それにもかかわらず、同エアバッグが普及していないのは、コストが高いからだ。豊田合成は「まだ生産量が少なく人手をかけて造っているため、コスト低減の段階まで至っていない」(同社執行役員で自動車事業本部副事業本部長の山本 直氏)とする。製造方法を変えて人件費を削減するためには、「採用メーカーや車種を増やす必要がある」(同氏)。

 スバルは歩行者保護エアバッグの搭載に積極的だ。レガシィアウトバックの以前は、16年に「インプレッサ」に初採用し、「フォレスター」と「レヴォーグ」にも標準装備した。同社は先進運転支援システム(ADAS)「アイサイト」を基軸とした安全性能をユーザーに訴求しており、衝突安全性能の向上に寄与する同エアバッグも搭載を続けるとみられる。

 コスト低減の方法は、生産規模の拡大だけではない。現行の歩行者保護エアバッグは、衝突後に短時間で急激に膨らませている。ADASのセンサーが進化し、歩行者との衝突が避けられないことを事前に検知できれば、エアバッグを膨らませる時間を長く確保できる。その分、エアバッグを膨らませるインフレーターなどのコストを抑えられる可能性がある。