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 米Drexel University(ドレクセル大学)は2022年2月、リチウム硫黄(Li-S)2次電池で充放電回数4000回以上を確認したと発表。英Nature系の学術誌に 論文 Stabilization of gamma sulfur at room temperature to enable the use of carbonate electrolyte in Li-S batteries も発表した。

 この電池の正極材料の電気容量は実測値で既存のLiイオン2次電池(LIB)の3~4倍。しかも電解液はLIBとほぼ同じでよく、LIBの製造設備の多くを流用できる。これが可能になった理由にまだ“謎”の部分があるものの、追試などで確認できれば、電池技術にとって大きなブレークスルーといえる。電気自動車(EV)やドローン、電動航空機などのゲームチェンジャーになりそうだ。

2年近くかけてサイクル寿命を測定

 開発したのは、同大学 College of Engineering、Department of Chemical and Biological Engineering Chair professorのVibha Kalra(カルラ)氏の研究チーム。カルラ氏らは、直径約150nmの多孔質カーボンナノファイバー(CNF)上に硫黄(S)を担持させた材料を集電体兼正極材料として利用。負極には金属リチウム(Li)を用いたLi-S2次電池を試作した(図1)。正極の容量密度が初期の800mAh/gから、約82%の658mAh/gまで0.5C(約2時間充電または放電)で4000回充放電できたとする。測定には足掛け2年近くかかったもようだ。

図1 開発したLi-S2次電池の概要
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図1 開発したLi-S2次電池の概要
左側が負極の金属Li、右側が正極(γS-CNF)。放電時は負極からLiイオンが正極に移動。それをγ硫黄(γS)が受け取ると、多硫化リチウムを経ずにLi2Sになる。電解液中にある、5員環に酸素(O)の2重結合が付いているのが炭酸エチレン(EC)、長細いのがジメチルカーボネート(DMC)。(出所:Drexel University)