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 インターネットの利用者情報保護について議論してきた総務省の有識者会議「電気通信事業ガバナンス検討会」(以下、ガバナンス検討会)は2022年2月18日、電気通信事業法改正に向けた報告書をまとめた。Webサイトやスマートフォンアプリケーションの利用者情報保護の規制を強化する。

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 ただ、検討過程では事業者団体の反発を受け、当初案から規制強化の内容が後退するなど曲折を経た。日経クロステックが2022年2月2日に開催したウェビナー「緊急討論!総務省にIT企業が猛反発、ネットの利用者保護はどうなる?」では、総務省のガバナンス検討会で議論してきた有識者らが登壇。報告書の公開に至るまでの経緯を説明したうえで、今後の課題を議論した。

ウェビナーの様子
ウェビナーの様子
出所:ウェビナー画面のキャプチャ―
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関連リンク: 日経クロステックウェビナー「緊急討論!総務省にIT企業が猛反発、ネットの利用者保護はどうなる?」(録画)

規制強化の内容は当初案から後退

 報告書がまとめた規制強化のポイントは主に2つある。1つは大多数の国民がサービスを利用する大手の事業者に対する規制だ。利用者情報を適正に取り扱う社内ルールの策定や管理者の選任、情報取り扱い方針の策定と公表を求める。規律の対象として利用者数1000万人以上の大規模サービスを想定していて、既存の通信サービスに加えて大手のSNS(交流サイト)や検索サービスも含むとする。

 もう1点は、Webサイトやアプリの閲覧履歴やサードパーティークッキーなどの端末情報に関する規制だ。これらの情報を第三者に外部送信する際、原則として通知・公表を行い、もしくは利用者の同意取得かオプトアウト(事後的な拒否)の機会を提供することを求める。

 閲覧履歴や端末情報などは一般に、ターゲティング広告の配信などのためにWebサイトやアプリに設置された情報収集モジュールなどで収集、外部送信されていることが多く、こうした行為に一定の規律を設ける。規制の対象には、これまで「通信の秘密の保護」「検閲の禁止」以外は電気通信事業法の規律対象外だった「電気通信事業を営む者」も含む。

 総務省は今回の報告書を基に、電気通信事業法の改正案を2022年の通常国会に提出する予定だ。

 今回の報告書に示された規制強化の内容は、当初案からは後退している。例えば当初は閲覧履歴などを外部送信する際に、同意取得かオプトアウトを義務付ける方針だったが、事業者団体などからの反発を受け、通知・公表も認める形となった。

利用者情報保護を総務省で検討

 ガバナンス検討会の構成員を務める英知法律事務所の森亮二弁護士はウェビナーの中で、利用者情報保護を巡るこれまでの検討の経緯を説明した。

 利用者情報保護について、同検討会は当初2つの提案をしていた。1つは、2021年3月に明らかになったLINEの個人情報管理を巡る問題を受けたもので、利用者情報を保管するサーバー設置国名などの公表義務付けを検討していた。これは報告書では事実上見送られた。

 もう1つは、閲覧履歴や端末情報などの外部送信に係る規律である。これらは「通信の秘密」として保護されず事業者の間で「筒抜け」となり、利用者保護や通信の信頼確保が害される恐れがあることから、総務省の別の有識者会議である「プラットフォームサービスに関する研究会(以下、プラットフォーム研究会)」のワーキンググループで対応が検討されてきた。森氏はガバナンス検討会に加え、プラットフォーム研究会の構成員でもある。

 続いてウェビナーに登壇した、プラットフォーム研究会の座長を務める東京大学大学院法学政治学研究科の宍戸常寿教授は、 同研究会での議論の経緯を説明した。

 2021年2月、プラットフォーム研究会の中にワーキンググループを立ち上げ、まず事業者から利用者情報の現状と課題についてヒアリングした。一方、同じ時期の2021年4月に公開されたデジタル市場競争会議の「デジタル広告市場の競争評価 最終報告」ではパーソナルデータの取得・利用にかかる懸念について「電気通信事業における個人情報保護に関するガイドライン」を改正して対応することが提案され、プラットフォーム研究会が議論を引き継いだという。

 プラットフォーム研究会では、利用者情報の取得のためWebサイトに設置されるクッキーやタグなどの国内外の状況について調べて整理したうえで、利用者情報を適切に取り扱うための論点をまとめた。2021年9月に中間とりまとめを公表し、これらの情報を「通信関連プライバシー」として保護されるべきものとした。

 その後、プラットフォーム研究会が取りまとめた利用者保護の議論をガバナンス検討会が引き継ぎ、電気通信事業者の利用者情報取り扱いについて、個人情報保護ガイドラインではなく電気通信事業法を改正して規制強化することを念頭に議論してきた。

政策形成過程の透明性の確保が必要

 ガバナンス検討会を運営する総務省は当初、2021年12月22日に予定していた会合で報告書案を公開し、意見募集を始める予定だった。ところがその前に事業者団体などからの反発が相次ぎ、いわゆる「炎上」状態となった。このため総務省は事業者などへのヒアリングの機会を急きょ追加で設けたうえで当初案を見直し、2022年1月14日に報告書案を公開し意見募集を始めた経緯がある。

 具体的には、2021年12月17日に新経済連盟が「電気通信事業法の改正の方向性に対する懸念について」とした文書を公開。規制強化の内容や、ガバナンス検討会での検討プロセスの不透明さなどを問題視した。あるIT企業の担当者は2021年11月下旬に規制強化の方針を知り、総務省に対して抗議をしたという。報告書案を公開した2022年1月14日のガバナンス検討会会合では、座長で東京大学公共政策大学院の大橋弘院長は「今回あるべき姿をしっかり議論できたかというと、至っていないとじくじたる思いだ」と述べて会合を締めくくった。