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 デジタル庁は2022年3月1日にワクチン接種記録システム(VRS)を改修し、自治体職員が住民のマイナンバーを入力することで、他自治体における接種記録を一括照会できる機能を実装した。新型コロナウイルスワクチンの3回目接種に当たって転居者の接種券を用意する自治体からは作業がスムーズになると歓迎の声が上がる。一方で、情報漏洩や不正利用のリスクが高まるとして困惑も広がっている。

マイナンバーで全自治体に一括照会

 VRSは、自治体が住民1人ひとりの接種状況を正確かつ迅速に把握するため、デジタル庁の前身である内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室がAmazon Web Services(AWS)上に構築したシステム。現在はデジタル庁が運営する。

 新型コロナウイルスワクチンを含め、予防接種法に基づくワクチン接種記録は居住地の自治体が管理する。自治体が転居者に対して3回目の接種券を発行する際は、過去の接種記録を転居元の自治体に照会・確認する必要がある。

 VRSでは個人の接種記録をマイナンバーとひも付けて管理している。そこで今回新たに追加した機能が、転居者のマイナンバーを入力したCSVファイルをVRSへアップロードするだけで接種記録を一括照会できる機能だ。マイナンバーをキーに夜間バッチで全自治体のデータと照会する仕組みとなっており、翌日以降に照会結果をダウンロードできる。

 自治体は新機能により、複数の転居者について、1回目と2回目の接種日や接種券番号、自治体コード、接種会場名、接種医師名、ワクチンメーカーなどをまとめて確認できるようになった。「数千件の転居者でもスムーズに作業ができた」(ある自治体の担当者)などと、自治体からは新機能を歓迎する声が多い。

 もともとワクチン接種記録は制度上、本人の同意を得なければ、自治体をまたいで共有できなかった。デジタル庁が2021年11月末にマイナンバー法(行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律)の法的解釈を整理し、本人の同意なしで共有が可能となった経緯がある。

 これを受け、デジタル庁はVRSを2021年12月中旬に改修。転入先の自治体から転出元の自治体に対して本人の同意なしで過去の接種記録を照会できるようになったが、1件ずつしか照会できず手間がかかっていた。引っ越しシーズン本番を目前に控え、今回の新機能は自治体にとってメリットが大きく、作業の大幅な軽減につながりそうだ。