ロシア軍が2022年2月24日にウクライナに、3月9日にはチェルノブイリ原子力発電所の外部電源が喪失したと報じられている。これで何が起こり得るのか。計算科学の専門家で、2011年3月11日の東日本大震災で福島第一原子力発電所のリスクをほぼリアルタイムかつ正確に予測したことでも知られる、神戸大学 大学院理学研究科 教授の牧野淳一郎氏に、今回のリスクを推測してもらった。(日経クロステック)
2022年3月9日に、チェルノブイリ原発で電力遮断、というニュースが世界を駆け巡りました。 IAEA(国際原子力機関) は既にTwitter リンク で
IAEA says heat load of spent fuel storage pool and volume of cooling water at #Chornobyl Nuclear Power Plant sufficient for effective heat removal without need for electrical supply. IAEA update from March 3:
https://bit.ly/3CrFMa6
つまり、冷却水の量は使用済み核燃料を冷やすのに十分で、外部電源が喪失していても大丈夫だ、との見解を出しています。一方、ウクライナの外務相が、電源供給がない状態が続くなら放射能漏れもありえるとしてロシアに電源復旧のための一時停戦を求めた、というニュース リンク もあります。
熱出力は運転時の10万分の1に
ここでは、では発熱量は現在どれくらいで、どの程度の危険があるのかを推定してみます。現在、チェルノブイリ原発の使用済み燃料は、「ISF-1」と呼ばれる湿式中間貯蔵施設、要するにプールに保管されており、「ISF-2」と呼ばれる乾式施設に移動を始めたところです。ISF-1には1~3号機の使用済み燃料の大半があることになります。1、2、3号機はそれぞれ 1996年、1991年、2000年に運転停止しています。熱出力はどれも、事故を起こした4号機と同じ3.2GW (1号機は小さいという資料もある)です。
まず、運転停止から20年以上たった燃料棒がどれくらいの崩壊熱を出すか、ですが、失敗学会の吉岡メモ リンク 中、の「4月6日(21:00)第20報 崩壊熱計算式について」 グラフ にある日本原子力学会推奨式をみると、1000日後で熱出力の1万分の1まで落ちていること、100日後から1000日後まででほぼ1/10 になっていることがわかります。
20年後は1万日後なので、さらに1桁下がることを期待すると、熱出力の10万分の1です。これは20年後でも30年後でも大きくは変わらないわけなので、3基分でおよそ10GWの10万分の1、100kW程度の発熱をしていることになります。