ルネサス エレクトロニクスの2021年通年の売上高(売上収益)は前年比38.9%増の9944億円に達した*1。前年比増加率の38.9%は、半導体世界市場の前年比成長率26.2%を大きく上回っている*2。好調な業績に自信をつけた同社の柴田 英利氏(代表取締役社長 兼 CEO)は、22年以降も継続的な成長を見込む。それを実現するための戦略が22年3月3日にオンライン開催したアナリスト/報道機関向け説明会「Analyst Day」で明らかにされた。そこで、今後の同社成長をけん引する製品として注目されたのが、PMIC(Power Management IC)である。車載MCU(Micro Control Unit)やSoC(System on a Chip)に比べて地味な製品ではあるが、車載機器をはじめとしてほとんどのエレクトロニクスシステムや機器の安定動作に欠かせない半導体だ。
ルネサスは、主に2つの事業で売り上げを立てている。自動車向け事業(以下、自動車事業)と、産業・インフラ・IoT(Internet of Things)向け事業(以下、産業IoT事業)である。2つの事業の売上高は、多少の凸凹はあるものの、全社売上高の約半分で推移してきた。例えば、21年の売上高は自動車事業が4623億円、産業IoT事業が5155億円である。22年はどちらの事業も21年よりも売上高が増加するとみられる。ただし、少し先まで見ると、TAM(Total Addressable Market)の違いにより、自動車事業よりも産業IoT事業の方が伸びしろが大きい。実際、車載半導体の市場は半導体市場全体に占める割合は小さい。現在は10%弱といわれている。今後、電動化やADAS(先進運転支援システム)/自動運転によって車載半導体の市場は大きくなるものの、米Gartner(ガートナー)が21年5月に発表した予測では*3、25年になっても車載半導体の全体に占める比率は11.6%にすぎない。
関連記事 *3 車載半導体の供給難は21年中に解消、ガートナーが見通しすなわち、ルネサスが事業規模を大きく拡大するためには、同社の強みである自動車事業を安定成長させながら、TAMの大きな産業IoT事業で顧客層や応用分野を広げて売上高を伸ばしていく必要がある。それを裏付けるようなスライドを柴田氏が今回のAnalyst Dayで見せた。2つの事業のデザインイン(商談獲得)のグラフである(縦軸は、デザインインの数ではなく、全商談が成立した場合の売上高)。22年のデザインインのターゲットは、自動車事業においては前年比10%増程度だが、産業IoT事業では同20%増程度に設定しているとのことだった。
柴田氏が見せた、「ウイニングコンボ」のスライドでも、両事業での戦略の違いがうかがえる。ウイニングコンボとはルネサスが扱う複数の製品を組み合わせて顧客に提供する販売戦略である。単なる抱き合わせ販売と異なるのは、複数製品を組み合わせたサブシステムが動作することをルネサスが検証していることだ。このため、顧客はサブシステムの設計や検証が不要になり、システム全体の開発負荷を削減できる。
今回、同氏が見せた自動車向けウイニングコンボのロードマップでは、統合型のウイニングコンボを提供することを訴えていた。当初のウイニングコンボは、車載MCUやSoCをベースにしたECU(Electronic Control Unit)のリファレンス設計だったが、今後は、セントラルコンピューターやカメラADAS機器など、機器のレベルに統合した形で提供したいとのことだった。すなわち、同じ顧客に対してより多くの製品をまとめたウイニングコンボを提供することを狙う。
一方、産業IoT事業のウイニングコンボのスライドでは、狙える市場や顧客が増えたことをアピールしていた。具体的には、買収した英Dialog Semiconductor(ダイアログ セミコンダクター:BluetoothやローエンドWi-Fiに強み)やイスラエルCeleno Communications(セレノ コミュニケーションズ:ハイエンドWi-Fiに強み)の製品が加わったことで、ルネサスの無線接続(コネクティビティー)製品はエンドポイントからアクセスポイントまでをカバーできるようになった。以下、この記事では、ルネサスが成長に向けて力を入れる産業IoT事業の製品を紹介する。自動車事業で力を入れるADAS/自動運転関連製品などについては、後日、別記事で紹介する予定である。