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 「テレワークは感染拡大を防ぐ手段として有効だ。しかし、感染力が強いオミクロン株が猛威を振るっている感染拡大の第6波では、テレワークの実施率は伸び悩んでいたり、減少したりしている」。テレワーク関連の継続調査で2022年1月以降、こんな傾向が見えてきた。

 パーソル総合研究所が2022年3月1日に発表した2万人規模の最新調査によると、正社員のテレワーク実施率は28.5%だった。この調査は、オミクロン株の感染が急拡大していた2022年2月4日~7日の間に、全国の就業者を対象にインターネットで実施したもので、正社員については2万490人が調査対象になった。

 同研究所は2020年3月以降、新型コロナウイルスに関連したテレワークの状況を把握する調査を継続的に実施している。今回の調査は「新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査」として6回目になる。28.5%という最新調査におけるテレワーク実施率は、感染拡大の第5波と重なる2021年7月30日~8月1日に実施した前回調査と比べると、1.0ポイント上回っている。

パーソル総合研究所が実施してきた調査で得たテレワーク実施率などを示すグラフ
パーソル総合研究所が実施してきた調査で得たテレワーク実施率などを示すグラフ
(出所:パーソル総合研究所)
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感染者数は過去最多、なのに伸びないテレワークの実施率

 これらの調査結果について、パーソル総合研究所の小林祐児上席主任研究員は、新型コロナウイルス感染者数が前回調査の時期である第5波に比べて、今回の調査の実施時期である第6波のほうが多いことに着目している。「第6波で過去最多の感染者数が出ているのにもかかわらず、テレワーク実施率が伸びなくなった。感染者数の増加が、企業が新たにテレワークを始めるきっかけに、もはやなっていない」(小林上席主任研究員)。

 調査では併せて、「テレワークを推奨する」といった方針を所属企業が打ち出しているかどうかも調べている。この結果からは、企業がテレワークに取り組む姿勢が積極的とはいえない状況も見えている。

 具体的には、企業から示されるテレワークに関する方針について最も多かった回答は「特に案内がない」で57.4%だった。「テレワークが推奨されている」「テレワークが命じられている」といった回答は合わせて38.6%で、前回調査の37.3%からほぼ横ばいとなっている。

 こうした結果の背景について、小林上席主任研究員は「世論や行政が発信するメッセージが飲食店や保育園などに関するものが中心で、テレワークへの注目度が低下している」ことを挙げる。「テレワークを推進する企業とそうでない企業が定着してしまった。感染者数が増えても、さほど働き方を大きく変えようとしないということだろう。テレワークを定着させている企業だけが、引き続き少しだけ出社を減らすくらいの対応になっている」と続ける。

日本生産性本部の調査ではテレワーク実施率が最低に

 2022年に入ってテレワーク実施率が低下する結果となった調査もある。日本生産性本部は2022年1月末に「第8回『働く人の意識調査』」を実施したところ、テレワークの実施率は18.5%だった。

 この調査は、2022年1月17日~18日の間、企業や団体で働く20歳以上の1100人を対象にインターネットで実施した。同本部はこの調査を2020年5月から四半期に1回実施している。

 日本生産性本部の柿岡明生産性総合研究センター上席研究員によると2020年5月の第1回の調査でテレワーク実施率は31.5%を記録。その後は感染拡大の状況によらず2割前後で定着する傾向を示してきた。ところが「2022年1月の今回の調査では18.5%とこれまでで最低の数値だった」と説明する。

日本生産性本部の「働く人の意識調査」におけるテレワーク実施率の推移
日本生産性本部の「働く人の意識調査」におけるテレワーク実施率の推移
(出所:日本生産性本部)
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