「デジタルを活用して店頭で提供する接客の価値を高める。顧客は店頭での『美容体験』を持ち帰り、いつでもどこでもその内容を振り返れるようになる」。資生堂が2022年2月に開始した新サービス「パーソナルビューティープラン」を手掛ける資生堂ジャパン美容戦略部BC事業連携グループの小林陽平氏は、同サービスをこう説明する。さまざまなサービスのオンラインシフトが進むなか、リアルでの体験価値が重要視される化粧品業界において、リアルとオンラインのすみ分けに対する1つの解といえるサービスになりそうだ。
パーソナルビューティープランは、店頭で美容部員(BC、ビューティーコンサルタント)の接客を受けた顧客がその内容をスマートフォンで「持って帰れる」サービスだ。接客後に発行される2次元コードを読み取ることで、BCとの対話などで得た肌チェックやパーソナルカラー診断の結果、購入したアイテムの使い方のポイントやお薦めの関連アイテム情報などをスマホで確認できる。「効果的なスキンケア方法やメーキャップ商品の似合う色使いを店頭で教えてもらったのに、実際に使う頃には細かい順番や塗り方を忘れてしまう」といった顧客の声に応える。
同社は新型コロナウイルス禍において、ライブコマースやオンラインでのバーチャルメーキャップサービスの整備をはじめとする非接触接客などの対応を進めてきた。そんななか 、自分に合うメークやスキンケアに悩みを抱えている顧客にとって「信頼できる美容のプロ」であるBCとのコミュニケーションに対する需要の高さを感じているという。
「現場のBCが培ってきたカウンセリング力に、肌測定などデジタルツールで得た情報をかけあわせる。人とデジタルのハイブリッドで接客のパーソナル化、BCと顧客のリレーション強化を狙う」(美容戦略部BC事業連携グループの戸並知大グループマネージャー)。リアルのサービスをデジタルで代替するのではなく、デジタルを1つの手段としてリアルのサービスの価値を向上させる考えだ。
あえて手書きで「アナログ感」残す
BCは店頭を訪れた顧客のメークやスキンケアに関する悩みや要望を聞いたうえで、肌の状態測定やメーキャップシミュレーションなどを実施、顧客に合った商品やその利用方法を紹介する。顧客とコミュニケーションを取りながら接客用端末である「ビューティー・タブレット」を操作して診断結果やアドバイスなどを登録し、最後に2次元コードを発行する。「BCと対話をしながら、自分専用のプランがつくり上げられていくこと自体も一種の美容体験」(戸並グループマネージャー)と位置づける。
顧客は2次元コードでアクセスしたWebページをブックマークしておけば、以降は何度でも接客内容を確認できる。2次元コードは1回の来店につき1つ発行する仕組みで、会員登録や商品の購入は必須としていない。幅広い顧客が使えるサービス設計とした。
パーソナルビューティープランには「スキンケアプラン」「メイクアッププラン」の2種類を用意。スキンケアプランでは肌測定の結果やお手入れのポイント、効果的な使い方、お手入れの順序やお薦めのアイテムなどを、メイクアッププランでは肌色測定やメークのポイント、メーキャップシミュレーターの結果などを確認できる。BCからの手書きのメッセージなど、あえてアナログ感を残した機能もある。

例えば、商品の使用方法を説明する画面では実際に撮影した顧客の顔写真にBCが手書きでポイントを書き込む。美容戦略部BC事業連携グループの志村侑紀氏は「本人の写真を使うことで『私のためのプラン』であることを実感してもらう。手書きのメッセージは見返すたびにBCとのやりとりを思い出しやすい」と話す。スマホの画面の中でもBCという「人」の存在を想起させ、次の来店につなげる狙いだ。
パーソナルビューティープラン内から同社EC(電子商取引)サイトへの動線を用意しているものの、購買行動の主体をWebサイトに移行してもらう意図はない。「(ECサイトは)あくまで選択肢の1つ。デジタルを通じて資生堂の強みであるBCの応対の価値を感じてもらい、長期愛用者を増やしていきたい」(戸並グループマネージャー)