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 パナソニックが住宅電気設備向け事業のデジタルトランスフォーメーション(DX)に挑んでいる。同社の製品を取り扱う工務店向けのクラウドサービスを開発。工務店の施工担当者や営業担当者ごとに異なっていた業務ノウハウを標準化し、集客から、プラン提案、仕様決め、施工、引き渡し、アフターサービスまで全ての工程の情報を関係者で共有できるようにした。工務店の生産性向上を支援して製品の拡販を図ると同時に、最終顧客である施主向けのマーケティングなど従来の枠を超えた事業開発につなげる。

 「建築業界はこの60年、同じ仕事のやり方をしているといわれる」。パナソニック エレクトリックワークス社の重冨日登士エナジーシステム事業部新規ビジネス推進室主幹は語る。おのおのの職人のやり方が属人化し、施主とのやり取りや工程の情報を共有する手段が十分に整備されていないため、作業の抜けや漏れ、手戻りが長年大きな問題となっていた。部材の発注漏れによる納期の遅延や施工のミスにより、数十万から数千万円の損害が発生する事案もあり得るという。

 住宅業界を取り巻く環境も厳しさを増している。野村総合研究所が2021年6月に発表した「野村総合研究所、2040年度の住宅市場を予測」によると、新設住宅着工戸数は移動世帯数の減少や平均築年数の伸長などにより、2020年度の81万戸から、2030年度には65万戸、2040年度には46万戸と減少していく見込みだ。需要が限られていく中、既存の事業を継続するだけでは、収益の拡大は難しい。パナソニックにとって自社の製品を取り扱う工務店の生産性向上は、住宅設備事業そのものの将来を左右する重大事だ。

工務店の遅れたデジタル化を取り戻すために

 工務店のアナログな業務を改善し生産性向上を支援するため、パナソニックが開発したのが工務店向けの情報共有SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)「sumgoo(スムグー)」だ。何カ月もかかる家づくりの複雑な業務フローを集客からプラン提案、仕様決め、施工、引き渡し、アフターサービスまでそれぞれタスクとして細分化し、各テンプレートに沿って業務を進める。テンプレートにはチェックリストや関連ファイルがパッケージ化されており、クラウド上で一つ一つチェックをしながら進めることで、作業の抜け漏れを防ぐ。進行は工務店から施主、取引先の業者までが1つのアカウントで共有できる。2021年10月に提供を始めた。

sumgooのサービス概要
sumgooのサービス概要
(出所:パナソニックの資料を基に日経クロステック作成)
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 基本料金は月額2万2000円から、5棟以上で利用する場合は1棟ごとに4000円加算される従量課金制を採用。利用する工務店は同時施工件数が5棟以上から30棟以内を扱っている店舗を想定している。2021年10月のリリースから5カ月で、すでに数十社と契約をした。

 開発にあたって2020年11月、データ解析ベンチャーのフライウィールと検討を開始し、同年12月に企業のスマートフォンアプリの受託開発などを手掛けるSun Asteriskを加え、2021年1月に開発プロジェクトを開始した。パナソニックはプロダクトのオーナー、フライウィールはコンセプトや機能設計など、Sun Asteriskは開発をそれぞれ担当した。

 同サービスの特徴はさまざまなデータを統合して表示するダッシュボードを利用者ごとに分けている点だ。経営者は売り上げや案件の進行、担当者はタスクや施主との商談記録、施主は施工の進行状況の写真などをスマホで確認できる。

 ダッシュボードの作り込みには中小の工務店コンサルタントが携わり、工務店の経営者や営業はどういう情報を見ればいいのかを洗い出した。さらに表計算ソフトで管理していた業務も整理し、「ノウハウをデザインに落とし込んだ」とSun Asteriskの斎藤幸士Creative & Engineering Unit/CTOsは振り返る。

 まずは開発の最初のフェーズで、工務店向けコンサルタントが既存の業務プロセスを分解し、どういったプロセスならばミスが発生しないのかなどの内容をヒアリングした。そして各社がオンラインを中心としたチャットコミュニケーションや会議でレビューを重ねて、使いやすいデザインを構築していった。