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 三菱ガス化学はAI(人工知能)スタートアップのABEJA(アベジャ、東京・港)とタッグを組み、新潟工場の配管の腐食を検査するシステムにAIを導入した。導入時には、AIと人の協調によりオペレーションを遂行する「ヒューマン・イン・ザ・ループ(人間参加型、以下HITL)」機械学習によるアプローチを用いた。

 HITL機械学習とは人間と機械の知能を組み合わせて、高精度で効率的なAIシステムの開発・運用を目指すアプローチだ。機械学習のモデルの訓練時に人間の判断を取り入れてモデルの精度向上などを図る。

 化学プラントのようなミッションクリティカルな業務にAIを導入するには、99%以上といった高精度を実現してから現場に本格導入することが求められる。AIの精度そのものを99%以上に高めるまでには何度もPoC(概念検証)を重ねる必要がある。しかし、化学プラントのような現場の業務にAIを導入する場合、解決したい問題の種類の多さや発生する頻度にばらつきがあるなどの特徴があるため、実運用までにかなりの時間とコストがかかる。HITL機械学習の採用により、この課題解決を図った。

現場が求めた「AI導入」

 三菱ガス化学の新潟工場は日本海に面している。工場の配管は海風にさらされ、腐食しやすい。配管の腐食が進むと穴が開き、事故の原因にもなる。そのため、配管のチェックは欠かせない重要な業務である。

三菱ガス化学の新潟工場
三菱ガス化学の新潟工場
(出所:三菱ガス化学)
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 配管が腐食していないかどうかチェックするため、工場の全体を把握する職員(運転員)が工場内を回って腐食の可能性がある配管を撮影する。腐食の有無やその程度を判断するのは、難易度が高い。そのため、運転員が撮影した画像を熟練の職員(保守員)が目視する形で腐食度合いなどを判定していた。

 しかし工場が広いため、運転員が撮影する配管の写真の数は膨大になる。それにより、腐食を判断する保守員の業務量が多くなってしまうという課題を抱えていた。現場の職員らはこうした状況を問題視し、AIを活用して業務が効率化できないか考えたという。同社では、2021年から中期経営計画の一環として、デジタル技術を使った生産部門や間接部門の業務効率化と最適化を図る「SMART MGC」プロジェクトが始まっている。工場現場からの課題意識を受け、同工場で画像判断によるAI導入に踏み切った。

 導入に向け、同社は現場の職員と共に複数社に相談した。ABEJAもその中の1社だった。

 同社がABEJAを選定した理由について三菱ガス化学の生産技術部プロセス技術グループの新保利弘主席は「AIの性能だけに特化せず、どのようなオペレーションをしたら現場にAIが役立つかという議論ができたからだ」と話す。

 複数社に相談したことで、AIを現場に導入するためにはまず「自社で判断ロジックを標準化しなければならないことに気づいた」(新保主席)という。

 そこで三菱ガス化学では暗黙知を基に「腐食の段階づけ」や「腐食に対応する処置」などの基準を明確にし、マニュアル化した。マニュアル化に向け、同社の生産技術部プロセス技術グループや工場の現場など複数部署からなるワーキンググループをつくった。

 その後同社はABEJAと一緒に、2019年11月から腐食配管の外観検査へのAI導入に着手した。専門知識がなくてもAIのモデル開発ができる「ABEJA Platform」を現場に適用するアプローチとして、同社とABEJAはHITL機械学習を取り入れた。