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 ルネサスエレクトロニクス(以下、ルネサス)が車載SoC(System on Chip)の「性能/電力比」で競合他社を圧倒し始めた。2022年3月に発表した7nm世代の車載SoC「R-Car V4H」では、AI(人工知能)のディープラーニング(深層学習)推論で16TOPS/Wと、世界最高水準の性能/電力比を実現した。

 ルネサスの車載SoCが性能/電力比で注目を集めたのは、20年12月に発表した12nm世代の「R-Car V3U」が最初だった。13.8TOPS/WのAIアクセラレーター(専用回路)を搭載し、半導体回路技術の国際会議「2021 IEEE International Solid-State Circuits Conference(ISSCC 2021)」で高く評価された。

 今回のV4Hでは、V3UのAIアクセラレーターに改良を加え、7nm世代に微細化することで、AIアクセラレーター単体で16TOPS/W、チップ全体でも9TOPS/Wと、競合他社の約3倍の性能/電力比を実現している。

ディープラーニング推論の性能/電力比で他社を圧倒
ディープラーニング推論の性能/電力比で他社を圧倒
(出所:ルネサスエレクトロニクス)
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 同社がAIアクセラレーターの性能/電力比にこだわる背景には、先進運転支援システム(ADAS)や自動運転システムをめぐる半導体メーカーの激しい競争がある。トヨタ自動車が「レクサスLS」や「MIRAI(ミライ)」に搭載した高度運転支援技術「Advanced Drive(アドバンストドライブ)」のチップ構成を見ても、それが分かる。

 デンソー製のADAS用ECUの主要処理にはルネサスの車載SoC「R-Car H3e」が採用されているものの、AI処理には東芝の画像認識プロセッサー「Visconti」や、米NVIDIA(エヌビディア)の車載SoC「Xavier」が使われている。

 さらに、トヨタは米Intel(インテル)子会社のイスラエルMobileye(モービルアイ)の車載SoC「EyeQ」シリーズを搭載したADASカメラの採用に踏み切ることを21年に明らかにした。数年以内に搭載が始まる見通しという。

 このようにADAS/自動運転システム用の車載SoCでは、モービルアイやエヌビディアといったIT系の半導体大手が強い。最近では米Qualcomm(クアルコム)のようなモバイル系の半導体大手も車載分野に参入し、競争が激化している。一方、東芝はViscontiの新規開発を中止してしまった。国内勢で残っているのはルネサスくらいである。

 こうした状況の中、同社はAIアクセラレーターの性能/電力比を競合他社との大きな違いと位置づける。性能/電力比が競合他社の約3倍ということは、同じ性能(TOPS値)ならば、チップの消費電力を3分の1にできることを意味する。水冷ではなく、空冷が可能になれば、ECUのコストを大幅に下げられる。

 特にレベル2~3のADAS/自動運転システムは、25~30年に普及期を迎え、ECUの低消費電力化や低コスト化が競争軸になるとみられている。

R-Car V4Hで狙うのはレベル2~3のボリュームゾーン
R-Car V4Hで狙うのはレベル2~3のボリュームゾーン
(出所:ルネサスエレクトロニクス)
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 そうしたニーズに当てはまる車載SoCとして、ルネサスはR-Car V4Hを投入した。AIアクセラレーターによってチップの消費電力を抑えつつ、現状では複数のチップで構成されているADAS/自動運転システムを1チップ化することで“普及価格帯”の実現を目指す。

1チップでレベル2(NCAP 2025)を実現
1チップでレベル2(NCAP 2025)を実現
(出所:ルネサスエレクトロニクス)
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