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 今後の普及が見込まれる自動運転サービス。これを企業が導入する場合、万が一の事故に備えて保険が必要になる。既存の自動車保険の考え方にのっとると、自動運転サービスを導入する企業が保険に加入する。しかし、自動運転サービス向けの保険は別の企業が加入する形を取ろう――。

 こうした考えで生まれた新しい保険商品がある。損害保険ジャパン、自動運転システムの開発や実用化を進めるティアフォー、高精度3次元地図に関する技術を持つアイサンテクノロジーの3社と、東京大学大学院情報理工学系研究科の加藤真平准教授の研究室が共同で開発した「自動運転システム提供者専用保険」だ。

 特定の条件下で運転を完全に自動化する「レベル4」以上の自動運転サービス関連の保険で、3社が2022年2月に発表した。さらに同年4月18日には、この保険を組み込んだサービスの試験導入が合成樹脂を手掛けるプライムポリマーの工場で始まったことも明らかになった。

ティアフォーとヤマハ発動機の合弁会社であるeve autonomy(イヴ オートノミー)の自動搬送サービスに今回の保険が組み込まれている
ティアフォーとヤマハ発動機の合弁会社であるeve autonomy(イヴ オートノミー)の自動搬送サービスに今回の保険が組み込まれている
(出所:eve autonomy)
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 損害保険ジャパンなどがレベル4以上の自動運転サービスに関する保険を開発した背景には、2025年度までに全国40カ所以上でレベル4の自動運転サービスの実現を国が目指していたり、工場内で搬送用の無人車両を走らせる準備が進んでいたりしていることがある。「安心して自動運転サービスを利用してもらえるように、専用の保険を開発した」と、損害保険ジャパンの新海正史リテール商品業務部自動運転タスクフォースリーダーは説明する。

 この保険の最大の特徴は加入者だ。自動運転車を導入する企業ではなく、その自動運転車に組み込まれるシステムの提供ベンダーが加入する。損害保険ジャパンなどによると、自動運転に関するこのような契約方式は国内初だという。

「交通事業者が保険の加入者になると割り切れない点が出てくる」

 既存の自動車保険と同じように、自動運転車を導入して事業を展開する交通事業者などが保険に加入する形も当然考えられる。だが、損害保険ジャパンなどが今回開発した保険では、自動運転システムのベンダーが加入する形にした。その理由は何か。新海リーダーは「自動運転車を使って交通事業を手掛ける事業者が保険に加入する形では、割り切れない点が後々になって出てくる」という。

 例えば、ベンダーの自動運転システムを活用して展開する交通サービスで事故が起きたとする。レベル4の自動運転では、自動運転車に交通事業者の社員が同乗していないことが増える。こうした状況で事故が起きると、「当社の社員が運転しているわけでもないのに、なぜ当社が事故の責任を負って保険で補償しなければいけないのか」と、交通事業者が割り切れない思いをする。

 自動運転システムのベンダーが保険に加入して、システムなどと合わせて万が一の事故発生時の補償も提供する形であれば、こうした割り切れない点をなくせる。新海リーダーは「交通事業者から見ると、ベンダーがシステムの安全性に加えて、事故が起きたときのリスクに対する責任も負ってくれることになる」と説明する。

損害保険ジャパンなどが開発した「自動運転システム提供者専用保険」の提供形態やメリットをまとめた図
損害保険ジャパンなどが開発した「自動運転システム提供者専用保険」の提供形態やメリットをまとめた図
(出所:損害保険ジャパン)
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 新海リーダーはさらに「自動運転による事業を始める際にどのような保険に加入すればよいのかを検討したり、適切な保険会社を探したりする手間を省ける」と続ける。交通事業者は安心して自動運転サービスの導入に踏み切れるわけだ。

 また「自社の工場内で自動運転車の事故が起きた」といった場合にもメリットがある。「既存の自動車保険では、工場を持つ企業が加入していても、自損事故の扱いとなって保険の対象外になりやすい。自動運転システムのベンダーが保険に加入していれば保険の対象になり、補償の幅を広げられる」(新海リーダー)。

安全なシステムを提供するベンダーは保険料が安く済む

 保険に加入する自動運転システムのベンダーにもメリットがある。「事故発生リスクが低いシステムをベンダーが開発して提供すれば、保険料が下がる仕組みにした」と新海リーダーは説明する。

 自動運転サービスはサブスクリプション型で提供していくことが多いと予想される。サービスを通して提供される自動運転システムのバージョンアップなどを継続して行う必要があるためだ。この場合、ベンダーは加入した保険料を、自動運転サービス料金の一部に含めていくことになる。

 ベンダーがバージョンアップを続けるなどして事故リスクの低いシステムを交通事業者に提供できれば、ベンダーが支払う保険料は下がる。そうなればサービス料金も安く抑えられる。